司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 ある方からこんな話を聞きました。

 

 全国都道府県や市区町村の行政が定期的に行っている無料法律相談会。行政が無料で開催している信頼感もあって、市民も気軽に利用できるとされてきたものですが、それが昨今、大きく変化してきているというのです。

 

 一昔前、行政が行う無料相談会は、市民と弁護士の貴重な接点であり、弁護士にとっては、「紹介」と並んで、事件受任につなげられる機会でもありました。ところが、最近の市民無料相談会は、その意味での機能が失われつつあるというのです。

 

 この現象は、一体何なのでしょうか。総合的な法律的サービスの支援窓口として2006年に設置された日本司法支援センター(法テラス)の存在も挙げられていますが、もう一つ、根本的なものとして無視できないのは、インターネットによる情報革命の影響です。

 

 インターネットが普及し、一昔前は市民法律相談を利用していたことの、かなりの部分が、ネット上で解決できるようになった、ということです。もちろん、すべての法的問題がネットで解決できるわけではありませんが、そこで氷解できてしまう市民の疑問、悩みが、それなりに存在していた、ということです。

 

 一方、個々の法律事務所もホームページを設け、無料法律相談をうたうところも現れています。市民は、これまで以上に、「法律相談」そのものにアクセスしやすくなったため、自治体相談から分散しつつある、という見方もありますが、いずれにしても、市民が何時でも何処でもアクセスできる、ネットの存在が自治体の「法律相談」に変化をもたらしている、ということです。

 

 そのなかで、弁護士側が見過ごせなくなっているのは、やはり「無料」というテーマです。従来の自治体の「相談」は無料であっても、弁護士にとっては、あくまで集客ソースのひとつになり得るものでした。ネット活用の広がりは、前記したような法律事務所のネット展開で、集客ソースとしての可能性をもたらした一方で、本来は「有料」課金を前提としている法律相談に対する、「無料」イメージの広がりに拍車がかかっていることも否定できないからです。

 

 IT業界にいる立場から言えば、無料化の波は他の業界にも表れています。検索エンジンは巨大なデータベースのため、法律的な知識も年数が経てば経つほどネット上に充実し、まずますネット上で、無料で解決する分野は広がりを見せるかもしれません。市民の悩みのなかには、そもそも市民が弁護士に相談するほどのことではない、と考えるものもありますし、ネット上で無料で弁護士に相談できるサイトもあるというであれば、当然、そちらに流れる傾向も生まれます。

 

 弁護士からすれば、もし、そうしたネット上で疑問が氷解するレベルの相談であれば、それをあえて持ち込んでこられる必要はない、という見方もできますが、一面、ネット相談の正確性、責任ということからは、不安視する見方もあります。一方で、弁護士会は、それこそ「小さなことでも弁護士に」ということを呼び掛け、市民の身近な存在になることを掲げ続けており、その方向性のもとに司法改革は、その数を激増させているという事情もあります。その流れからすれば、「小さなことでも」と言い続ける必要に迫られながらも、もし、ネットという存在が、それこそ「無料」で市民の疑問解決の「受け皿」に相当程度なり得るのであるならば、膨大な弁護士ニーズを描き込んだ「改革」の青写真にも影響しておかしくありません。

 

 インターネットの登場は、否応なく、市民の法律に絡む悩みをはっきりと分化するものになったといえそうです。ネット上で「無料」で解決できてしまう悩み、それでは解決できない、どうしても弁護士を必要とする悩み、そしてネット上で解決できたように思えても、やはり弁護士に相談した方がいい悩み――。

 

 弁護士がビジネス化するほどに、この区別なく、「何でも弁護士」の方向に強調されかねませんが、利用者からすれば、できれば簡易、無料の解決を前提として、それでもどうにもならない時に弁護士を使うと考えるのは当然であり、ネットの普及は、よりその利用者の感覚を強めるものにもなるでしょう。とすれば、市民の側がこだわる必要があるのは、前記したような悩みの適正な区別ということになります。

 

 インターネットがつなぐ利用者・市民と弁護士の関係を考えるとき、これからの課題はここにあると思います。ネットを活用した簡易・無料解決の進展とともに、案件によっての、正確な弁護士有料活用への誘引――。ネットを通して、弁護士が市民に身近になることとともに、まずは、市民の悩みをめぐり新しい環境をもたらしているネット社会そのものに、もっと弁護士は身近な存在になる必要があるのかもしれません。これは、弁護士のネット活用を提唱し、制作する側にとっての課題でもあります。

 



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