司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 
 最近よく言われるのが差別化という言葉。

 

 「ホームページには差別化が必要」

 「ホームページには自社の強みを打ち出ださなければならない」

 「ホームページには実績を公開しなければならない」

 「ホームページにはお客様の声を掲載しなければならない」

 

 こんな言葉が毎日、ネット上には溢れかえっています。「他人と同じことをしていてはだめ」と聞くと、弁護士さんの中には、「確かに弁護士数は多くなっているから普通にやっていてもうまくいかない」と考えてしまう方も多いのではないかと思います。

 

 この主張が、全く間違っているとは言いません。しかし、私がホームページを900社以上作った経験から言えるのは、この言葉はあまり意味のない言葉だと痛感しています。何故なら、この言葉には自社のウリについては書かれているが、相談者について一切定義されていないからです。

 

 弁護士に依頼するのは、ホームページ作成業者やコンサルタントではなく、相談者であることはいうまでもありません。相談するか、しないかを決定する相談者について、何も定義されていなければ、結果には結びつくわけはありません。

 

 実は相談者は、「差別化」という言葉は意識しないし、そんな情報を求めてはいません。多くの相談者から「貴事務所は他事務所と比べて、強みがあるからお願します」と言われて依頼されることは、それほど多くないのではないでしょうか。

 

 それよりも大事なことは、お金を払ってでも相談に来る市民が、本当は何を求め、逆に何を欠落させてはならないのか、ということです。むしろ、こういう時期だからこそ、同業者との競争と差別化に目を奪われ過ぎず、依頼者・相談者の本当の声にも耳を傾けるべきではないでしょうか。

 

 かつてから、弁護士と弁護士利用者との間には、視点の違いともいえるような、サービスの提供者と享受者のズレがある、とされています。そこには、過度の期待感を含めた弁護士業務に対する根本的な利用者側の誤解という面もあります。法律相談と人生相談がごちゃまぜになっているとか、近年、有料提供が基本であるはずの弁護士による相談への間違ったイメージ化といったことが、業界内で取り沙汰されています。

 

 その一方で、競争を意識するほどに、サービスとしてその視点の違いを調整しようとしているようにとれる弁護士も現れています。このこと自体も、すべて悪いわけではありません。つまりは、従来やってこなかった付加的サービスを増やす発想です。ただ、それですべてが最終的に望ましい解決や、よりよい依頼者と弁護士の関係を作るとはいえないところが、弁護士業務の特殊性というべきかもしれません。なぜならば、その付加的なサービスをいくら向上させても、本当に依頼者の満足が得られる結果にたどり着けるとは限らないからです。

 

 弁護士は、とにかく個々の事案に対して、依頼者の声を聞くことと説明することが基本の仕事です。そして、できることを正直に伝えるとともに、誤解に対してもきちんと向き合う。いわば、姿勢を伝えることこそ、一番のアピールではいでしょうか。どれだけ親身に、どれだけ真面目に事案と依頼者に向き合うのか。

 

 弁護士が増えた、競争が激しくなっている、というなかで、最近、逆に依頼者の弁護士に対する警戒心は、かつてより増しているという見方があります。、ベテラン弁護士でも依頼者のカネに手をつけるというケースを、近年,マスコミ報道を通じて目する依頼者からすれば、むしろ競争を意識している弁護士に対して、サービスの向上以前に、拝金的な意味での警戒感を募らせるというのは、当然といえば当然というべきです。

 

 どんなに実績をうたい、競合同業者を意識したメリットをうたっている弁護士でも、たとえ弁護士自身は特別手を抜いた意識なかったとしても、依頼者側の感覚として連絡が密でなかったり、説明が粗雑であれば、そこで関係は終わりです。そういう事案が沢山報告されています。

 

 専門分野での実績を伝えるのも、もちろん大事な情報提供といえますが、それと同時に、一般市民の依頼者感覚からすれば、まず、どれほど親身に耳を貸し、誠意をもって依頼者と事案に向かうのか。基本といえば基本ですが、まず、本当の意味で反響と実績につながるホームページを作るには、「差別化」よりも、そのことを念頭に置かなければなりません。



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