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 〈「デュー・プロセス」条項〉

 

 裁判所が立法府および行政府の判断を尊重し、違憲性が明確でない限り違憲判断をしないことを司法消極主義と呼び、その反対の立場、すなわち立法・行政権力の判断に相当踏み込んだ審理と判断をして、違憲判断を厭わないことを司法積極主義と呼ぶとすれば、日本の最高裁は明らかに前者に属する。

 

 アメリカではどうであろうか。まず、1937年までの状況を見てみよう。

 

 同国は南北戦争終了後、産業が大きく発展した。それに伴って、市場支配・独占、貧困、労使紛争、過酷労働、児童労働等が大きな社会問題となってきた。連邦や各州はこれに対処するための弱者保護法、企業規制法等の社会立法を用意した。

 

 これに立ちはだかったのが連邦最高裁であった。その根拠とされたのが、「デュー・プロセス」条項と既に見た「州際通商条項」であった。

 

 「デュー・プロセス」とは連邦憲法修正5条及び同14条に定められる。修正5条は、「何人も、デュー・プロセスによらずに、生命、自由または財産を奪われることはない」とし、修正14条は、「いかなる州も、デュー・プロセスによらずに、何人からもその生命、自由または財産を奪ってはならない」と定める。連邦憲法は本来は連邦に関する定めであり、憲法に特別の定めがない限り各州には当然には適用されないとするのが建前であるが、南北戦争の結果、奴隷解放を実効化するために州に向けて制定された規定が修正14条である。従って、修正5条が連邦を拘束し、修正14条が州を拘束するということになるが、実際にはその文言は殆ど同一であるから、両者を区別せずに「デュー・プロセス」と呼ばれる。

 

 「デュー・プロセス」とは言葉通りに訳せば、「適正な手続」となる。たとえば、法律が人を逮捕するときに裁判所の発する令状を必要とする場合、令状なしの逮捕は「適正な手続」を踏んでいないことになる。「嫌疑の存在を示す資料がなくても裁判所の発した令状さえあれば人を逮捕できる」という法律は、形式的にその法律が議会で可決成立されたとしても適正さを欠くために有効とはならない。従って、このような法律に基づく令状による逮捕も適正な手続き履践をしていないこととなる。

 

 これに対して、どんな些細な法律違反でもその嫌疑を裏付ける資料に基づく裁判所発行の令状があれば逮捕できるとする法律は、他の憲法条項違反ということはあり得ても、問題の所在は手続それ自体にあるわけではないから「デュー・プロセス」とは無関係ではないかという問題がある。この問いに対し、連邦最高裁は、法律は手続的にだけでなく実体的(内容的)にも適正でなければならないという回答を出した。「デュー・プロセス」は「法の適正手続き」と和訳されることが多かったが、このように実体的適正をも求める概念だとすると必ずしも正しい訳とは言えなくなる。在日アメリカ大使館アメリカンセンターはこれを「法の適正な過程」と訳す。「適正な手続のみならず法の適正な内容も要求するところからこのように訳される」との理由からである。

 

 

 〈自由主義市場を尊重していた連邦最高裁〉

 

 問題は連邦最高裁が何をもって実体・内容が適正とするかである。そして、それは弱肉強食をも許容しうるような市場経済的世界観に基づき契約の自由と財産権保護を優先するというものであった。この立場から社会権的規制法をかなり厳しく断罪した。労働法分野でいえば、労働時間規制法や黄犬契約禁止法を企業の契約の自由を侵害するものとして違憲と判断したのである。

 

 州際通商条項については前回において触れた。アメリカは主権を維持した州が寄り集まったものであり、連邦は国の存立と各州間の調整を使命とする。後者の観点からは州と州の間の交易を規制することができる。これが州際通商条項(連邦憲法1章8条3項)である。他方で主権を有した州は州民の安全と福祉に責任を負う。これを、「ポリス・パワー」という。警察権力という意味ではない。

 

 たとえば、同じ製品を製造するA州とB州で法定最低賃金額が異なれば安い方の州がC州との交易に有利となる。この不公平を是正するために連邦が全国一律の最賃法を制定したとしよう。州の間の通商にかかわる規制だから連邦の権限内の法律とも言えそうだが、法の狙いが労働者の福祉であればそれは本来「ポリス・パワー」として州の管轄事項である。前者であれば合憲だが、後者とすれば違憲となる。連邦最高裁は法がそのどちらに該当するかにつき、規制対象が州際通商に直接影響するか否かであるとして州際通商該当性を狭く解し、あるいは、州際通商への影響が重大か等の必ずしも客観的に明らかでない基準を示した。

 

 そして、連邦最高裁は、「連邦主義」、すなわちアメリカは主権を有する州の「連邦」に過ぎない、との立場から「ポリス・パワー」を優先する判断を多く出した。労働法の分野では連邦法である鉄道労働者の退職年金制度保障法や児童労働規制法を、たとえば同法違反により製造された製品の他州への販売を禁止することにつき、製造自体は州内のことであり、通商とは直接の関係がないとするなどして、これらを違憲とした。

 

 また、労働者の団結権と最低労働条件を保証しようとする基本的労働法である全国産業復興法を州際通商条項に該当しないとして違憲とした。なお、これまで、労働組合運動はシャーマン法(独禁法)を駆使した行政及び司法から厳しく弾圧されてきたのであるが、全国産業復興法は労働運動をその桎梏から一部開放しようとするものであった。

 

 以上のように、連邦最高裁は立法の違憲性を積極的に判断してきた。そして、それは自由主義市場を尊重し、決してリベラルな方向性を持つものではなかった。これが1929年の大恐慌とフランクリン・ルーズベルト大統領の登場により大きく変化することになる。次回は1937年以降のこの変化について述べてみよう。



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