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 〈自白という「身代金」を要求する日本の実態〉

 一 日本の刑事司法は、「人質司法」だといわれる。その概略は以下のとおりである。

 1 逮捕から起訴又は不起訴決定まで72時間とされる。ただし、この時間制限は一つの犯罪につき定められていると解釈されている(一人についての時間制限だという考え方もあるが、実務も多くの学説もこれを採用しない)。例えば、最初、住居侵入で逮捕され、72時間経過後に死体遺棄で逮捕し、その72時間後に殺人で逮捕、ということになれば、合計216時間の身柄拘束となる。しかも、起訴前は、保釈という制度は適用されない。

 この間、被疑者が否認を続ければ、昼夜取り調べが実施される。被疑者はこの取り調べを拒否することができないとするのが実務であり、多くの学説である。

 この点で、自白という「身代金」を払うまで被疑者の拘束を続けるという意味で、「人質司法」といわれる実態を示す。

 2 起訴となれば、被疑者は被告人となり、保釈の可能性が出てくる。

 しかし、実際には、被告人が否認を続けると、検察官は、「被告人には逃亡する恐れがある」とか「被告人は証拠を隠滅する恐れがある」と主張して、裁判官に対し保釈を認めないように働きかける。そして、多くの場合、裁判官はこの主張を認めて保釈を許さない。こうなると、公判が終了するまで、延々と勾留が続く。これも、自白という「身代金」を要求して被告人を人質に取っていることになる。

 3 こうして、被疑者・被告人は長期の身柄拘束を受け、その間、職や収入源を失い、家族や友人との交流を制限され、四六時中監視される牢獄生活に耐えねばならない。弁護人との打ち合わせも不自由な環境の中で行われなければならない。否認の代償は非常に大きなものとなる。

 そのため、心ならずも、身に覚えのない罪を「自白」するケースが多く報告されている。

 日本の捜査機関(警察や検察)は強大な捜査権限を有し、逮捕に至るまでには相当多くの証拠を収集しているのであるから、そして、被疑者・被告人に自白を強制することは禁止されているのであるから、自白するまで身柄拘束を解かないという実務は改めるべきである。学説も、このような運用の前提となる憲法や法律の解釈を批判して、実務を憲法等の本来の趣旨に立ち返らせるべく、解釈学を展開すべきである。


 〈アメリカ型「人質司法」の現実〉

 二 では、アメリカでは「人質司法」は存在しないのであろうか。

 1 修正憲法8条は、「過大な額の保証金」を課すことを禁止している。これは連邦レベルの規制だが、他の各州も保釈制度を有している。

 このため、重罪犯罪にあっても、被疑者は逮捕から24時間以内ないしは逮捕後遅滞なく、裁判官の下に連れていかれ、そこで保釈の可否の決定がなされ、実際に多くの被疑者が保釈される。

 2 しかし、実際の運用には問題がある。

 第1に、証人威迫や公判期日不出頭の恐れのある場合のほか、釈放されると他の犯罪を犯す恐れがあることを理由に保釈を拒否することができる。逮捕の理由となった犯罪の嫌疑があるからこそ逮捕されたのに、他の犯罪の恐れを理由に身柄を拘束するのでは、「(犯罪を犯したという)相当な理由」がなければ逮捕・抑留されないとする修正憲法4条に齟齬するし、何よりも、そのような拘束は「予防拘禁」(犯罪の実行やその証明がなくても、犯罪を犯す恐れがあれば、社会を防衛するために予防的に拘束すること)というしかない。

 第2に、保証金の問題がある。この金が払えなければ身柄拘束が続く。そして、多くの被疑者・被告人は貧困層に属するため、保釈の有無は貧富の差に直結している。また、黒人の多くは貧困層に属する。このため、アメリカの多くの法域で保釈保証金制度を廃止し始めているが、それでも、全国で常時50万人が保証金を支払えないために未決勾留されているといわれる。

 第3に、実際の運用としては、罪状認否の際に否認をすると保釈が認められなかったり、保証金額を多くするなど保釈条件が厳しくなったりする。このため、保釈を目的に仕方なく有罪答弁する事例が多く報告されている。まさに、「人質司法」と呼べるものである。識者の中には、保釈保証金を指して「身代金」という者もある。このアメリカ型「人質司法」が多くの誤判を生む原因だと指摘する論者も多い。

 4 このため、アメリカでも保釈制度についても、いろいろな改革案が提起され、いくつかは実行されているが、議員、裁判官及び検察官の選挙の際には、いかに声高に、「麻薬戦争」や「犯罪との戦い」を叫ぶかが当選への鍵となることが多く、これに人種差別的運用が重なって、抜本的解決には道が遠いようである。

 三 刑事司法の大きな原則の一つとして「推定無罪」がある。この原則に従うなら、合理的な疑いを超えて有罪が証明されるまで、人は無罪と推定されることになる。無罪の人を国家権力が拘束するのは例外中の例外でなければならない。「人質司法」は否定されなければならない。

 その意味で、保釈不許可にするには、抽象的に「証拠隠滅の恐れあり」とか「逃亡の恐れあり」、さらにアメリカでいうなら「コミュニティへの脅威」などではなく、具体的な根拠を明らかにし、しかも、勾留以外他に不都合を防止する方法がない場合という要件を課す必要があろう。

 こうしてみると、日米ともに、保釈制度の観点からも、実態は「推定無罪」からかけ離れていると言えそうである。



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