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 〈修正14条をめぐる問題〉

 

 前回は、「アメリカ連邦憲法の中の修正条項の位置付け、連邦憲法の各州への拘束力の有無について紹介してみたいと思う。」と書いた。これについては、拙著「カリフォルニア州刑事ディスカバリー」(花伝社)に詳しく述べた。これに多少の変更を加えてここに記してみよう。

 

 アメリカはイギリスからの独立後、「国家」としての体裁づくりを急ぐため、扱いに争いのあった人権条項については、妥協の産物としてその制定を後回しにして統治機構についての定めを整備して憲法を制定した。1789年のことである。そのため、人権に関する条項(権利章典)は憲法制定後の1791年に「修正条項」として定められることになった。そこで憲法の人権条項は「修正第2条」などと呼ばれるのである。

 

 当初の権利章典は修正1条から10条で構成された。このうち、修正1条から8条までが国民の権利を実質的に定めている。しかし、連邦憲法は本来は連邦政府を規制するものであり、州を規制するものではない。そうとすると、「州もこの規定を守りなさい。」というような明示の定めがないのに州がそれらの条項に拘束されるいわれはないことになる。

 

 この結論に大きな変化を与えたのが南北戦争(1861年~1865年)後の1868年に、解放された奴隷の権利を確保することを意図して制定された修正14条である。これは、「合衆国に生まれまたは帰化し、かつ、合衆国の管轄に服する者は、合衆国の市民であり、かつ、その居住する州の市民である。いかなる州も、合衆国の市民の特権または免除を制約する法律を制定し、または実施してはならない。いかなる州も、法の適正手続きによらずに、何人からもその生命、自由または財産を奪ってはならない。いかなる州も、その管轄内にある者に対し法の平等な保護を否定してはならない。」と定めるのである。州の守るべき義務を規定している。

 

 ではこれにより、自動的に権利章典の規定が州を拘束することになったか。否である。確かに、修正14条は全面的に権利章典を取り入れた、したがってその規定は州を拘束すると言う論(全面組入れ説)もあるにはあった。しかし、連邦最高裁はこの説に与しなかった。最高裁は、修正14条は直接には修正1条から8条とは関係ない、修正1条から8条違反と見える州政府の行為が修正14条のデュープロセス(法の適正手続き)違反すると判断されることがあっても、それは人々の伝統と良心に根差す正義の原則の内容である基本的人権に反するからである(基本的人権基準説)、従って、修正1条から8条のいずれかに反するからと言って直ちに修正14条違反となるとは限らないし、逆に、修正1条から8条に反しなくても基本的公正性に反する州政府の行為は修正14条違反ということもある、としたのである。

 

 ややこしい言い方をしたが、要するに修正14条以外の権利章典条項は州には適用がない、適用があるように見える場合があってもそれは修正14条を適用した結果でしかない、というのである。

 

 

 〈「選択的組み入れ説」の登場〉

 

 しかし、その後、両者の折衷説とも呼べる「選択的組み入れ説」が現れ、これが有力となり判例として確立された。この説は、確かに修正14条は修正1条から8条の全てをそのまま取り入れるものではないとして全面組入れ説を否定し、他方で、特定事案ごとに諸般の事情を総合考慮して決するという基本的人権基準説の思考方法を排し、それら権利章典に定められる個々の権利の性質上、それがアメリカにおける刑事司法の基本的正義を定めるものであれば、それは修正14条に選択的に組み入れられ、州政府の活動にも適用される、というのである。つまり、個別事案ごとに判断する手法から各条文の性質を勘案して決定するとう方法に変更されたのである。

 

 この説の確立は1960年代になってからである。折からの司法手続きに関する基本的人権概念の広がりを受け、この説が受け入れられ、かつ、選択される権利の広がりを見た。このため、全面組入れ説論者も選択的組み入れ説を全面組入れ説の代案的なものとして支持するようになった。

 

 こうして、修正14条には修正1条から8条が定める権利の殆どが入ることになり、ここに組み入れられない、すなわち州の活動に適用されない人権条項は大陪審による起訴の保証(修正5条)と過大な保釈金の禁止(修正8条)だけとなっている。なお、大陪審とは市民が陪審員となって、検察の提示する事件を起訴するかどうかを決めるというものである。手続きは担当検察官がリードして進められ、実際には検察官の求める通りの起訴がなされる。「ラバー・スタンプ」(めくら版)と言われる所以である。この起訴を「インダイトメント」と言い、検察官が起訴する「インフォメーション」と区別される。

 

 また、保釈保証金制度(ボンドシステムという。)については、それが経済的弱者に著しく不公平に作用するとして、サンフランシスコ公設弁護人事務所を中心とした廃止運動が活発になされており、カリフォルニア州でのボンドシステムの廃止立法が視野に入っているところである(2017年5月時点)。

 

 なお、この点に関して、2014年にニュージャージー州が非暴力犯罪についてボンドシステ廃止という大きな改革を果たした。それは、証人や社会に脅威をもたらす恐れのある場合と逃走する恐れのある場合は保釈無しの勾留を認め、他方で、非暴力犯については保証金(ボンド)システムを廃止するというものである。これにより拘置所人口が19%減少したとの報告がなされている。

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