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 相次ぐ法科大学院の撤退の原因について、弁護士が読み解いている短いネット番組が流れている。タイトルは「法科大学院の減少、背景にある“不安”とは」(日テレNEWS24、7月30日)。

 

 全国の法科大学院が当初の74校から半数以上の38校が募集停止している状況には、端的に法科大学院に入学したい人が増えない、ということがあるとしたうえで、出演している弁護士はその原因として2点挙げている。一つは「法律家になっても食べられないんじゃないかという不安」。もう一つは「法科大学院にいっても(司法試験に)受からないんだったら、2、3年の期間をかけても時間と費用が見合わないんじゃないか」という発想。要は、司法試験合格率の低さ。

 

 しかし、この番組で弁護士は後者については触れず、前者の原因についてだけ言及。「私の周りの弁護士を見ても、食べられないという弁護士の方は見たことがなくて、正直、そういう方がどこにいるのかなと思う状況」「法律家は十分に食べられていると思いますし」、「例えば最近ですと、AIとかドローンとか、あるいは仮想通貨とか、そういった最新の分野に関しては、新しい法律ができていきますので、そういう分野について、若手の弁護士が専門分野として切り込んでいくことで、十分に活動範囲を広げていく」などとして、極力「食べられない」不安は杞憂であるかのような扱いで、その解消に努めて番組は終わってしまう。

 

 この番組は、彼自身の意図はどうであれ、結果的に法科大学院擁護派には望ましい、もっと言ってしまえば、その意向に沿った作りになったといえる。二つある志望者の法科大学院敬遠意識のうち、一つを杞憂と位置付ければ、当然の残る原因は司法試験の合格率だけになる。しかも、受からない原因については言及せず、少なくとも法科大学院の教育に問題があった、とはしていない。法科大学院関係者が繰り出す、司法試験元凶説には都合がいいことになる。

 

 この弁護士が個人的な感想として、「食べられないという弁護士」にお目にかかったことがないとか、彼が言及していない増員政策で増えた弁護士のどれほどの経済的支えになるかを度外視して、弁護士の活動範囲「まだまだある」論を唱えるのは、もちろん自由だ。しかし、番組の効果としては、バイアスのかかったものになっているといわざるを得ない。

 

 一番目の「不安」の根幹には、増員政策がもたらした弁護士の経済的価値の下落という決定的な現実がある。「不安」というよりも、ここにはむしろ冷静な志望者たちの目線があるというべきだ。「不安だから」とか「受からないから」とか単純な意識とは違う、リターンも含めて弁護士の経済的価値の現実を見切った結果がそこにあるとみるべきなのである。

 

 法科大学院関係者が「抜け道」として目の敵にしている「予備試験」への人気が衰えないことを挙げて、志望者にとっての弁護士の資格価値は必ずしも衰えていない、という人もいる。しかし、これは既に社会的評価においても、その後の就職においても優位に立てる、言い方は必ずしも適切でないかもしれないが、一般的な資格価値下落の現実のなかでも、大手事務所など「勝ち組」に回れるという計算が、「予備試験」ルートならば成り立つと読んだ志望者の動向と読むのが自然だ。従って、法科大学院擁護派にとっては、本道のプラス評価にはつながらない、有り難いくない現実になる。

 

 別の言い方をすると、結局、法科大学院制度擁護派を含めた「改革」路線派にとって、司法試験元凶説は一番都合がいいことになる。弁護士資格の経済的価値の下落を元凶とすれば、弁護士増員政策の失敗、弁護士の需要論の誤算に踏み込むことになり、「改革」の根本が問われてしまうからだ。増員路線のうえに築かれた法科大学院制度としては、基礎から変えなければならないような大工事は望まない。

 

 経済的価値下落元凶説に立つならば、実は志望者の目線にあるのは、出演弁護士がいう「食べられるか」不安ですらない、ということもいえなくない。かつてのように「恵まれていない」ということ自体、わざわざ難関試験に時間とおカネをかけてチャレンジするに値しない、他の進路と比較して当然に妙味を感じないということになる。少なくとも自分をより高く遇してもらいたいと考える優秀な人材をつなぎとめるには、「食えるか食えないか」の次元では説得力がないという見方はできてしまう。

 

 これも、「やってやれないことはない」式の話の不安解消策で、原因の半分が消えてくれる、その程度の原因であると見たい側にとっては、この志望者意識も不都合なものといえてしまう。

 

 結果的この番組が伝え、同時に「改革」路線にしがみつく側に都合のいい論調が流されても、現在、法曹養成が、まさにその「改革」によって追い込まれている袋小路からは、やはり脱することはできない、といわなければならない。



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