〈トランプの行為、フィリピン法では違法にも〉
6月1日、トランプ大統領がホワイトハウスから近くの教会に行く道を確保するために、警察官が催涙ガスを使って、平和的抗議活動をしていた市民や取材中のマスコミ関係者を追い払った。これを、「犯罪的」とする批判が多く出された。
しかし、これは、犯罪「的」というよりも犯罪ではないか。アメリカでも日本でも、少なくとも暴行罪や傷害罪は成立しそうである。
とはいえ、「合法集会蹴散らし罪」という犯罪は存在しない。本件行為の本質は集会やデモの妨害だから、「犯罪」と言うには、その手段とした暴行等に目を付けざるを得ない。だから、行為の本質部分について、「犯罪的」という表現になるのも理解できる。
この点、私が現在、滞在するフィリピンでは事情を異にする。
前回に述べたように、フィリピンはアメリカの長期支配があり、憲法の人権条項は、アメリカのそれと酷似している。しかし、フィリピンは、そこにとどまらず、基本的人権を実効的に保証するための刑法規定が用意されているのである。
すなわち、刑法第2章に、「国家の基礎法に反する罪」を置き、公権力に携わる者が市民の基本的権利を侵害する行為を犯罪としている。恣意的身柄拘束罪、裁判官への被疑者引致遅滞罪、不当住居侵入・捜索罪、宗教の自由妨害罪等である。そして、その中に、平和的集会妨害・解散罪がある。「合法集会蹴散らし罪」が存在するのである。
冒頭に紹介した警察の行為は、この「合法集会蹴散らし罪」に該当しよう。そして、日本及びアメリカと同様に、フィリピンにも共犯規定が存在する。
そうすると、トランプ大統領が、教会へ行く道程を確保するために警察官に催涙弾による抗議集団排除を命じたとすれば、フィリピン法によれば「合法集会蹴散らし罪」の共犯ということになり得る。
もっとも、日本、アメリカ、フィリピンともに、必ずしも検察の政治からの独立性が確かなものとはなっていないようであり、いずれに国にあっても、憲法上の制約を抜きにしても、行政トップの起訴に至ることはなさそうである。