司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 先日、経営者向けにある講演を行いました。この講演に、20期代のあるベテラン弁護士も参加していました。初対面です。

 

 私の講演中、ベテラン弁護士が頷いています。「内容証明は宣戦布告」「紛争になってしまったら、戦わざるを得ない」など、弁護士にとっては当たり前の話しかしていません。なぜ頷いているのだろうと、不思議に感じていました。

 

 講演後の懇親会で,そのベテラン弁護士と話をしました。

 

 (ベテラン弁護士)「君は講演中に『宣戦布告』、『戦い』という言葉を何回使ったと思う?」
 (私) 「はい?確かにその言葉を使いましたが、回数までは・・・。(何か間違ったことを言ったのだろうか?)」
 (ベテラン弁護士) 「最近の若い弁護士は、弁護士が戦う仕事であることをわかっていない。裁判官や相手方弁護士の言いなりになってしまう。しかし、弁護士は『武者』でなければならない。そうでなければ権力と戦えない。昔はこんなことは当たり前だから教えなくてもよかったのだが。どうやら君には教える必要はないね」

 

 なるほど、ベテラン弁護士が講演中に頷いていたのは、そういう理由だったのか、と理解しました。もっとも新人の頃の私は、武者ではありませんでした。司法修習を終えたばかりで実務経験ゼロですので、右も左もわかりません。社会経験もありませんでしたので、いわば新卒と同じです。しかしながら、弁護士の仕事は紛争解決であり、必然的に戦いを求められる仕事です(※もちろん戦いとは「依頼者の利益のために、必要な限りで」という意味であり、狂犬のように何でも噛みつくという意味ではありません。時々そういう弁護士もいますが・・・)。

 

 弁護士1ヵ月目、破産事件の債権者である銀行から電話がありました。電話をとると、いきなり怒鳴りつけられました。理由は、債権者に提出を求められた資料を断ったことにあります(提出義務のない書類です)。面食らった私は反射的に「す、すみません。」と言ってしまいました。しかし冷静に考えると、私が謝る必要はありませんでした。債権者の迫力に負けただけです。ボス弁と兄弁から「謝る必要があったのか。そうでないなら弁護士が簡単に謝るな。弁護士としての自覚が足りない」と叱られました。

 

 確かにその通りでした。思えばこのとき初めて、自分が選んだ弁護士という職業は、簡単に相手の言いなりになるのではなく、依頼者のために戦わなければならないのだと理解したような気がします。

 

 自分が「武者」になったのかどうかはわかりませんが、少なくとも今の私は,相手方に怒鳴りつけられても,あるいは相手方が事務所に押しかけてきても,以前よりは上手く対応できるようになりました。

 

 ところで、昔の弁護士はどうだったのでしょうか。今よりは弁護士という職業に対する社会的信頼があったはずですし、OJTの機会にも恵まれていました。収入面は間違いなく今より良いです。司法研修所は裁判官や検察官のなり手が少なくて、勧誘が大変だったという話も聞いたことがあります。弁護士が恵まれていた時代です。戦いやすい環境にあったのではないでしょうか。

 

 しかし、今は違います。就職すらままなりませんので、OJTの機会を得られない弁護士が増えています。スキルが身についていなければ自信もありませんので、戦えないまま相手の言いなりになってしまうのではないでしょうか。あるいは、闇雲に吠えるだけのパフォーマンスをするだけの弁護士が生まれるだけです。

 

 そして、収入がなければ自分の生活で手一杯ですので、社会正義のために戦う余裕などありません。

 

 仮に、そのベテラン弁護士が言うように戦わない弁護士が増えているとすれば、その原因はやはり弁護士激増による就職難と収入減が原因でしょう。ベテラン弁護士の話を聞いて、弁護士激増による弊害が現実に生じていることを再認識しました。



スポンサーリンク


関連記事

New Topics

投稿数1,193 コメント数410
▼弁護士観察日記 更新中▼

法曹界ウォッチャーがつづる弁護士との付き合い方から、その生態、弁護士・会の裏話


ページ上部に