本コラムでも触れたことがあるテーマですが、司法修習生に対する給費制は平成23年11月に廃止され、新65期から貸与制に移行しました。司法修習生は、ロースクールの奨学金という借金に加え、修習中にさらに借金を抱えてしまうことになります。法曹志望者が減っている大きな原因の一つです。
この給費制廃止問題に関し、有志の弁護士が違憲訴訟を提起する予定とのことです。同弁護団のホームページに、貸与制のもとで修習した新65期の先生の声が掲載されていました。
「修習地は実家から通える範囲を希望したのに、遠方の修習地に配属された。修習中に父が他界したが、実家に戻る費用も出ない。司法修習生は兼業が禁止され収入がないので、葬儀費用は貸与制のもとで借り入れたお金を充てざるをえなかった」
「ロースクールの学費と生活費で900万円もかかった。さらに、貸与制になったため借金が300万円増えた。お金のない若者に多額の費用負担を強いるのは酷である。」
・・・新65期の先生方の切実な訴えに、胸が痛みます。私は修習したのは平成17年から平成18年ですが、同じ司法修習とは思えません。私の司法修習時代は給費制でしたので、返済の心配をせず修習に専念できました。弁護士が多額の負債を抱えていては、プロボノ活動に専念できません。多くの弁護士が給費制の復活を望んでいます。私もその1人です。
もっとも、給費制復活のハードルは非常に高いと思います。原資は国の予算、すなわち国民の税金です。国民の関心は「減税」でしょうから、予算のかかる給費制復活は理解を得にくい問題だと思います。
弁護士会が一致団結すれば、給費制の復活も現実味を帯びてきます。本来なら平成22年に貸与制に移行するはずだったのですが、弁護士会が一致団結して反対した結果、貸与制への移行を1年先の平成23年に延ばすことに成功した実績があります。
現在も給費制復活のために弁護士会が一致団結しているようにみえますが、必ずしもそうではないと感じています。
そもそも給費制が廃止された原因として、法曹人口増大の影響があったことは間違いありません。合格者が増えれば司法修習生も増え給費制の予算も増大しますから、予算の確保に限界が生じます。給費制復活のためには,法曹人口の減員を主張することが不可欠と考えます。ですが、少なくとも私の知る限り、給費制問題は法曹人口問題とは明確に結びつけられていないように感じます。
新65期の先生方は、ロースクールで共に学んだ仲間が受験勉強を続けているでしょうから、司法試験の合格率を下げることになる法曹人口問題について声をあげにくいというやむを得ない事情があると思います。
では、現日弁連執行部はどうかというと、法曹人口増員問題については消極的です。弁護士一人一人についても、法曹人口問題について意見は分かれています。
私は埼玉弁護士会の法曹人口問題対策本部に所属しています。そして、給費制問題対策本部もあります。給費制問題は法曹人口問題と密接に関連するので一緒に活動するのが効率的だと思うのですが、法曹人口問題について弁護士の意見が分かれているため、一緒に活動することが難しい状況になっています。
法曹人口問題について弁護士が一致団結していない以上、結果として、法曹人口問題と密接に関連するはずの給費制問題についても、一致団結しているとは言い切れないように思えます。このような状態で、国民の理解を得にくい給費制を復活させることができるのだろうかと、不安を感じてしまいます。
私には、「日弁連が弁護士増員という愚かな政策をとってしまった結果、給費制という法曹育成に不可欠な制度を手放してしまった」というようにしか感じられません。その結果、これから弁護士を目指す方達が苦労を強いられるは理不尽というほかありません。ハードルは高いですが、1日も早く給付制を復活させてほしいものです。