司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 
 勤務弁護士時代の5年間は経営のことを意識する必要はありませんでしたので、弁護士としての本業に専念していました。

 

 経営を意識するようになったのは独立の数ヶ月前からです。弁護士としての本業しかしていませんでしたので、自分の経営能力が未熟であることは自覚していました。しかも弁護士業界自体の競争が激化しています。弁護士激増に加え、独立開業した弁護士の経営を支えていたといっても過言ではない過払バブルも終わりつつあります。

 

 このような状況ですので、1人での独立開業をためらった時期もありました。

 

 独立を意識してはじめて、弁護士の経営コンサルティング業があることに気づきました。弁護士の競争が激化している時代ですので需要があるのでしょう。

 

 ただし注意しなければならない点があります。「経営コンサルタントが、弁護士法や弁護士の業務広告に関する規定等、弁護士独自の規制を学んでいるか」ということです。

 

 東日本大震災の後、たまたま知り合ったある経営コンサルタントは、「過払いの次は、東京電力への賠償請求だ」、「弁護士法人化して被災地に支店を作るべきだ」と語っていました。印象的だったのは、「法テラスが原発問題に入ってきたのは誤算だ」という言葉でした。法律援助制度を利用でき、かつ組織的に活動する法テラスは、経営コンサルタントである彼にとって強大な競争相手にみえたのでしょう。

 

 私は彼の言葉に賛同できませんでした。確かに被災者への救済は必要ですが、それを積極的にビジネスにしようとする考えは、人の不幸に群がるアンビュランスチェイサー(=救急車を追いかけて、被害者に対し事件の勧誘をする弁護士)を連想させました。

 

 他にも、「地元の中小企業に飛び込み営業をしなさい」という話もありました。そのときは不勉強ゆえ「違和感」を感じただけでしたが、気になって調べてみると、飛び込み営業は弁護士の業務広告に関する規定で明文で禁止されていることを知りました。

 

 私の推測ですが、彼は一般の民間企業に対する経営コンサルティングは優秀なのかもしれませんが、弁護士に対する経営コンサルティングの経験はほとんどなかったのだと思います。彼は善意で私にアドバイスをしてくれたのでしょうが、結果的に私が学んだのは「経営そのものが目的になってはならないこと」「弁護士の業務広告に関する規定等に抵触しないよう注意すること」でした。

 

 私が彼にコンサルティングを頼むことはありませんでしたが、彼のプランでは彼が弁護士に依頼者を紹介しようと考えていたようです。その場合、彼の経営コンサルティングに対する報酬はどうなるのでしょうか。彼への報酬が毎月一定の額であればともかく、弁護士の売上の割合に応じてコンサルティング報酬を支払うのであれば、非弁提携になってしまいます。

 

 私が「違和感」を感じることができたのは、長くはありませんが5年間の弁護士経験があったからかもしれません。5年前の私だったら、恥ずかしながら何も気づかなかったかもしれません。

 

 その経営コンサルタントに会った後の私は、飲み会などで、すでに開業している友人弁護士達から事務所経営のノウハウについて教わるようにしました。実際に開業している友人弁護士達のアドバイスは非常に勉強になりましたので、感謝しています。

 

 ある弁護士が書いた独立開業に関する書籍も購入しました。この書籍の非常に良かった点は、宣伝活動の際に、弁護士法や弁護士の業務広告に関する規定等に抵触することのないよう注意を促していることでした。

 

 結局、私は1人で独立開業しました。経営者には経営者の苦労があるということが独立してようやくわかった気がします。独立したお陰で人間として幅が広がったと思いますし、その経験が弁護士としての本業にも生きています。私は経営コンサルタントを頼んでいませんが、迷うことがあれば独立開業している弁護士に相談をしようと考えています。

 

 最後になりますが、弁護士の経営コンサルタントの方の大半は、弁護士の業務広告に関する規定等を学んでいらっしゃると思います。ただし、弁護士と同じで、経営コンサルタントの力量も様々のはずです。経営コンサルタントの力量を見誤れば、その結果は自分にはね返ってきます。

 

 道を踏み外すことのないよう「違和感」を感じられる自分でありたいです。



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