司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 独立開業してから、異業種交流会など色々なところに顔を出すようになりました。最初は営業活動という意識だったのですが、異業種の方と話をするのは見聞が広がりますので、非常に良い経験になります(単に私がお酒を飲むのが好きなだけという理由もありますが)。

 名刺交換の際に弁護士であることを告げると、よく受ける質問があります。

 「先生の専門分野は何ですか?」
 
 最初にこの質問を受けたとき、「弁護士は色々な事件をやりますので、専門分野はありませんよ」と素直に答えました。しかし、相手は私の答えに特に感想はなかったようです。

 名刺交換の度に専門分野について聞かれるので、「なるほど。弁護士に対して専門分野を聞くのは、挨拶のようなものなのだろうな」と感じるようになりました。今は相手の興味を引きそうな分野を取り扱っていることを答え、話を弾ませるようにしています。

 私が弁護士登録をした平成18年頃は、専門性をアピールする広告といえば「債務整理」ばかりでした。いわゆる過払いバブル全盛のころです。過払いバブルの終焉が近づくにつれ、いつの間にか債務整理以外でも専門性をアピールする広告を目にするようになりました。「刑事事件」「交通事故(被害者側)」などです。

 刑事事件といえば国選弁護を連想しますので、ペイしないジャンルというイメージがありました。しかしながら,私選弁護であれば十分ペイするようです。自白事件であれば、民事事件と比べ比較的短期間で事件が終わりますので、効率もよいと思います。

 交通事故(被害者側)は、後遺障害の等級認定が重ければ請求額が大きくなるので弁護士費用も高額になります。また、加害者が任意保険に入っていれば判決通りに保険会社が支払いをしてくれるので、回収不能というリスクがありません。確かにペイする事件です。

 依頼者の方にとっても、依頼したい事件について専門性を掲げている弁護士の方が安心できると思います。

 しかしながら、私のようないわゆるマチ弁は、地域の方々や中小企業から日々色々な相談を受けます。「この事件はできない。あの事件はできない。」というわけにはいきません。必然的にどんな事件でも対応できる万能型(オールラウンダー)になります。そもそも、私のようなマチ弁が特定の事件のみしか扱わないとしたら、受任件数自体が減りますので事務所の運営面からも支障がでます。

 もちろん、万能型とはいってもすべての事件に対応できるわけではなく、私の場合は知財関連や建築訴訟など高度の専門性を要する事件は対応していませんので、その分野が得意な弁護士を紹介しています。

 独立開業して感じるのは、万能型=地域密着型ということです。地域の市民や中小企業からの多様な相談に対応し、地域に密着して活動するという意味です。従来の弁護士はこの万能型=地域密着型でやっていけました。

 しかしながら、今は弁護士激増の時代ですので専門性をアピールしないと難しい時代になのかもしれません。これは私の体感にすぎないのですが、専門性をアピールしている弁護士は2つの傾向があるように感じます。

 1つは、債務整理で拡大した大手法律事務所です。過払いバブルの終焉に伴い債務整理の事件数が激減しますから、他のジャンルの事件を扱う必要が生じたのでしょう。もう1つは、比較的若い弁護士です。弁護士激増の荒波の中で生き残るには、専門性を掲げることにより既存の法律事務所との違いをアピールする必要があるのだと思います。

 専門型でも万能型(=地域密着型)でも、相談者の方が弁護士にアクセスしやすくなるのは非常に望ましいことです。ただし、専門型であろうが万能型であろうが、良いか悪いかは弁護士費用や方針次第です。

 ある刑事事件専門型の事務所では、規定の報酬とは別に、保釈に成功した場合は保釈保証金の1~2割が追加報酬として発生します。保釈保証金は一般的に150万円~200万円しますから、1~2割の追加報酬額は結構な額になります。

 ある交通事故専門型の事務所は、後遺障害の等級が一定以上でないと受任していません。後遺障害非該当あるいは低い等級だと請求額が低くなりがちですので、それほどペイしないからです。実際、私の依頼者で、交通事故専門を掲げる事務所に相談予約の電話をしたところ、後遺障害非該当であることを告げたら相談自体を断られたという方がいます。

 市民が弁護士にアクセスしやすくなったということは、どのような弁護士を選ぶかも自己責任になってしまうのでしょうか。しかしながら、一般の方が広告だけで弁護士の質を見極めるのは不可能に近いと感じます。今の私にできるのは、少なくとも私の依頼者の方には迷惑をかけることのないよう日々研鑽することです。

(補足)

 「弁護士及び弁護士法人並びに外国特別会員の業務広告に関する運用指針」では、弁護士が広告で「専門分野」の表示をすることは、誤導のおそれがあるので、その表現を控えるのが望ましいとのことです。本コラムではわかりやすさを優先するため「専門」という表現を使いましたが、専門分野の表示を認めるものでも推奨するものでもないことを申し添えます。



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