勤務弁護士時代の5年間は、所属事務所に事務職員がいました。事務職員は、書面の提出・郵送・電話の取次ぎ・コピーなどの事務作業のみならず、破産事件や任意整理などの分野についても手伝って下さいました。おかげさまで、打合せや書面作成など弁護士業務に専念することができました。
しかしながら、当時は「事務職員がいるのが当たり前」という環境に慣れてしまっており、事務職員の存在のありがたさを感じきれていなかったように思います。
独立直後は、事務職員なしで一人で業務を行っていました。独立直後は案件が多くないこと、あまり大きな声では言えませんが人件費をどの程度捻出できるか読めなかったことという理由からです。また、自分自身も事務職員の業務を一通り学びたかったという理由もあります。
事務作業の大変さについて、ある程度覚悟はしていましたが、想像以上でした。
打合せの際に依頼者から入手した資料をコピーするたびに、中座しなければなりません。大量の書面を作ると、コピーだけで1時間以上かかったことがあります。破産事件では債権者宛ての郵便物を、何十通も出すこともあります。切手や事務用品が足りなくなれば、外出して購入してきます。これは当然ですが、事務所の掃除もします。お茶出しも自分でやります。外出すると電話やFAXがたまってしまうため、外出中は落ち着きません。
大変ではありましたが、これらの純粋な事務作業は何とか私一人でもできます。問題なのは、「法律事務所特有の事務作業」でした。
そもそも、訴状の提出すらしたことがありません。内容証明郵便を出したこともなければ、登記簿を取り寄せたこともありません。刑事記録の謄写手続もわかりません。
わからないことだらけです。幸い、何かある度に前勤務先の事務職員から教えてもらっておりましたので、何とか乗り切ることができました。
しばらくすると急激に忙しくなり、1人では業務をこなすことができなくなりましたので、現在は事務職員を迎えております。幸い、社会経験豊富で優秀な方に巡り会うことができ、非常に助かっております。
事務職員のおかげで本業にエネルギーを回せるようになり、事務職員のありがたさを痛感しています。一人よりも事務職員がいる方が、対外的な信用面でもプラスになります。人を雇うこと自体も初めてですので、経営者としてもよい勉強をさせてもらっています。
独立開業したときの最初の目標は、事務職員を迎えることでした。おかげさまで、この目標を達成することができました。
ただし、事務職員を迎える際に迷ったことがあります。ある司法修習生の方から「事務職員の仕事もしますし、待遇も事務職員と同程度で結構ですから、是非採用して下さい」と頼み込まれたことがあります。弁護士就職難の時代ですので、新人弁護士の待遇が下がってきた話をよく聞きますが、まさにこれを象徴するような話でした。
さすがに弁護士は弁護士なりの待遇でお迎えしたいので、丁重にお断りしたのですが、その後、この司法修習生の方が就職できたのかどうかはわかりません。
結局、私が採用した事務職員は弁護士ではなく、純粋な事務職員です。しかしながら、上記の司法修習生の方が就職できず弁護士登録をしないという事態になってしまうのであれば、事務職員兼務でも採用した方がよかったのだろうかと、今でも考えてしまいます。
以前のコラムにも書きましたが、私がボス弁に育ててもらった恩を他の誰かに返したいと感じています。「事務職員兼務」ではなく、純粋に勤務弁護士として誰かを迎え育てることができるよう、私自身が弁護士としても経営者としても成長しなければなりません。