司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 私は司法修習59期です。平成17年4月から平成18年9月の間、司法修習生として活動していました。このころは「給費制」であり、司法修習生に給与が支給されていた時代でした。

 私の受験時代の話に遡りますが、私の家庭は人並みの生活はできていましたが裕福とまではいえませんでした(両親には非常に感謝しています)。塾講師等のアルバイトをしながら予備校代や生活費を捻出して勉強していました。アルバイトをしすぎると勉強時間が削られるので、必要な費用を稼げるギリギリのラインでアルバイトをしていました。贅沢な生活はできず飲食代を浮かせるために、家で沸かしたお茶を水筒に入れ、家で作ったおにぎりを昼食にして、近所の図書館で勉強していました。

 何とか司法試験に合格して司法修習生になって感動したのは、給与を頂けることでした。受験時代の生活と比べると、勉強しながら給与を頂けるのは本当にありがたいことでした。勉強代や生活費を稼ぐためにアルバイトをする必要がありません。おかげで司法修習に専念することができました。

 長い受験生活の末、夢にまで見た実務の世界に触れることができ、見るもの聞くもの全てが新鮮で楽しかったです。よい友人もできました。土日祝日は休みでしたが、弁護士会のイベントがあれば喜んで参加していました。今から思えば「修習時代の自分の方が熱心だったな」と思う程です(苦笑)。司法修習に専念できたのは、給費制のおかげといっても過言ではありません。

 しかしながら、この給費制は今期(65期)から廃止になりました。「貸与制」となり、司法修習中に国から支給された金員は将来返済しなければなりません。修習に必要な実費(配属地への転居費、交通費、住居費、その他生活費等)も自己負担ということです。司法修習生には修習専念義務がありますのでアルバイトをすることはできません。多くの司法修習生が法科大学院の学費で借金を抱えていますが、司法修習によりさらに借金が増えることになります。

 この貸与制には、日弁連も反対しています。「経済的に恵まれていない者が法曹になることが非常に困難になる」「弁護士になっても借金を返済するのに必死だろうから、プロボノ活動などできない」という意見を聞きます。

 私もそう思います。私は受験時代は金銭面で非常に苦労しましたが、少なくとも借金はありませんでした。仮に現在私が受験生だったとしたら、経済的問題で司法試験そのものを諦めざるを得なかったでしょう。

 私も貸与制には反対です。そして今、貸与制反対の考えは、ますます強くなりました。全員ではありませんが、今期の司法修習生は今までの司法修習生とは違うような気がします。私の勘違いかと思ったのですが、他の弁護士からも同じような意見を聞くので勘違いではないような気がします。

 まず、懇親会など費用のかかる行事に司法修習生の出席率が低くなったと聞きます。私は給費制の時代でしたので、懇親会は法曹から生の話を聞ける絶好の機会であり喜んで参加していました。しかしながら、貸与制の下での司法修習生が出費を抑えたくなるのは無理もありません。

 驚いたのは、司法修習生の中には「どうせ給与が出ないのだから、勤務時間外に頑張っても仕方がない。勤務時間外の行事には出席しない」と考えている方がいることです。全員ではなく、ごく一部だと思いますが、今期の司法修習生の中にはこのような会話があるとのことです。給費制のもとで修習をし、今期の司法修習生のような苦労を知らない私には、何も言えませんでした。・・・気の毒だと思いました。

 「法科大学院の学費で背負った数百万の借金」
 「弁護士になりたくても就職すらままならない」
 「仮に就職できても待遇は以前に比べ大幅に下がっている」

 悲しい時代です。司法修習生が抱えているフラストレーションは甚大です。何しろ生活がかかっています。多くの司法修習生は熱心に修習に励んでいるでしょうが、溜まりに溜まったフラストレーションが上記のような発言として現れてしまっているのではないでしょうか。

 思えば、,私の修習時代も勤務時間外に活動しても給与に影響はありませんでしたが、時間外の活動を給与に絡めて考えたことは全くありませんでした。むしろ「給与を頂いているのだから、しっかり勉強して頑張らなければならない」と考えていました。

 私の修習中、ある実務家の方から「判例集や実務本を購入して勉強しなさい。司法修習生の給与はそのために支給されています」と教えていただいたことがあります。その通りだと思いました。司法修習中に購入した実務本は、今でも活用しています

 私は当たり前のように司法修習時代に給与を頂き、当たり前のように就職して勤務弁護士として実務を学び、当たり前のように独立開業しました。

 しかしながら、今の時代では当たり前ではなくなってきています。若手の私でさえ、すでにクラシックスタイル(従来型)の弁護士になってしまっているのかもしれません。実務を学ぶゆとりを失ってしまった司法修習生は、法科大学院、弁護士激増、司法修習貸与制の被害者なのかもしれません。

 多額の借金を抱えたまま実務に出た弁護士はどのような活動をするのでしょうか。もちろん個人の資質によるところも大きいでしょうが、借金の影響がないとはいえません。将来、ユーザーである国民に悪影響を与えてしまう可能性は少なくないはずです。

 しかしながら、国も国民も悪影響はすぐにはわからないでしょう。取り返しのつかないレベルになるまでわからないはずです。危惧感を感じているのは、弁護士をはじめ一部の者だけです。

 原発問題と同じかもしれません。東日本大震災により原発がメルトダウンするまで、多くの方が原発問題に関心を持っていませんでした(恥ずかしながら私もその一人でした)。そして現在の世間の関心は、原発問題,東電の電気料値上げ問題です。消費税増税は避けられないでしょう。

 このような状況ですので、国民の税金から司法修習生に給与を支給することなど世間の理解を得られるはずがありません。原発がメルトダウンするまで多くの国民が気づかなかったように、貸与制の問題が現実化して国民に実害を与えない限り、給費制は復活することはないと思います。

 せめて、国や国民が貸与制の問題に気づく頃に、弁護士業界が手遅れの状態になっていないことを祈るばかりです。



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