司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

■執筆者 峯岸孝浩
登録5年で独立開業した地方会の若手弁護士が見て、感じた弁護士業や弁護士会の今をつづります。
1975年生まれ。1998年明治大学法学部卒業。2006年10月に埼玉弁護士会に弁護士登録。大倉浩法律事務所に勤務弁護士として所属。2012年1月「武蔵浦和法律事務所」を設立。埼玉速記録問題対策特別委員会委員長、埼玉子どもの権利委員会副委員長等を務める。

 法律事務所の様々なホームページを閲覧していると、相談料が有料の事務所もあれば、無料の事務所もあります。元々は法律相談は有料だったはずですので、相談無料の法律事務所が増えてきた、ということなのでしょう。

 法律相談料が売上全体に占める割合はごく一部です。法律相談料を無料にすれば、「相談件数アップ→受任件数アップ」になるはずですので、売上はプラスになるはずです。また、弁護士は敷居が高いと思われがちですので、「敷居の低さ」をアピールするという観点からも,相談料の無料化は効果があるでしょう。

 しかしながら、無料相談のデメリットもあります。確かに相談料無料の方が相談件数も受任件数もアップするのでしょうが、いわゆる「無料相談マニア」からの連絡も増えてしまい,負担も大きくなるからです。相談者が自分の望む答えを求めて、無料相談をハシゴします。弁護士が相談者の望む回答をしないと、無料相談をしている別の弁護士に相談するというわけです。

  「ドクターショッピング」という言葉がありますが、「弁護士ショッピング」と言うべき現象です。

 私自身も、定期的に開催されるある無料法律相談会で、毎回同じテーマ(無理筋)の相談をしてくるリピーターをみかけました。案の定、相談者の望む回答をしない弁護士に対し激昂していました。

 さて、私はどうしているかというと、相談料は原則有料としております。それでも、来所する意思は全くなく電話のみで聞くだけ聞こうという方は、少なくないです。話を聞いていると、すでに別の弁護士に相談したものの方針が合わなかったため、私に電話をかけてきたというケースも珍しくありません。まさに弁護士ショッピングです。

 残念ながらそのような方は、こちらの都合を考えずに延々と話を続けるケースが多いので、対応が大変です。このような対応を続けていては業務が滞ってしまいますし、何より、相談料を支払ってくださっている相談者の方に申し訳なく感じます。最近は、最低限のことだけ答えて、「詳細は、ご来所のうえご相談下さい」と答えています。

 最近のパターンとして感じるのは、自動車保険のオプションにある「弁護士保険(権利保護保険)制度(=弁護士費用補償特約)」の利用に伴う現象です。 交通事故の被害者などが使える保険であり、弁護士費用が保険会社から支払われます。依頼者の方が弁護士費用を負担しなくてすむので、非常に使い勝手のよい保険だと感じています。

 しかしながら、この弁護士保険制度にもデメリットがあると感じています。 依頼者の方が弁護士費用を負担しなくてすむので、弁護士に依頼しやすいと同時に、弁護士を変えやすいということにもつながります。私も、依頼を受けた後、徐々に依頼者の方が無理筋の希望をしてくるようになったので、方針について協議しようとしました。すると、あっさり解任されました。

 弁護士費用を支払ってくれた保険会社に解任された旨を報告したところ、依頼者はすでに弁護士保険制度を利用して、別の弁護士に依頼をしていました。 私自身に落ち度があるのであればやむを得ないのですが、「弁護士ショッピング」は自分が都合のよい道具として使われたような気がして、気分の良いものではありません。

 保険会社の担当者の方も、「弁護士保険制度を利用する方の中には、弁護士が何でも希望通りにやってくれると思っている方も少なくないです。方針が合わない度に弁護士を変えられては、何度も弁護士保険制度から弁護士費用を支払わなければならないので、保険会社の負担も大きくなってしまいます」と頭を抱えていました。

  「無料相談」「弁護士保険制度」により弁護士の敷居が低くなるのは良いことですが、必然的にデメリットも伴うのだと感じずにはいられません。そうだとしても、弁護士は法的に筋を通さなければなりませんので、解任される恐れがあっても自分なりの筋を通すべきであることは言うまでもありません。

ただし、またいつもの話になってしまいますが、競争激化により事務所の家賃さえも支払えないような経営状態だったら・・・・無理筋の事件でも「勝てる」と言って、依頼者のリクエスト通りに事件をすすめてしまうかもしれませんね。
 



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