通常の民間企業では、顧客を往訪するという営業形態は少なくありません。しかし、弁護士は違います。基本的には相談者や依頼者に来所していただきます。現地調査で外出することもありますが、初回から出張相談を行うことは多くありません(なお、本コラムでいう「出張相談」とは、債務整理系事務所が地方の公民館などを借りて行う無料相談会のようなケースを除きます。これはこれで色々と議論がありますが、また別の機会にさせていただきます)。
出張相談も可能ではありますが、資料やネット環境が充実している自分の事務所で相談を行う方が効率がよいです。また、移動の拘束時間の負担は大きいです。無料相談であれば当然大きな負担になりますし、出張相談料を頂いたとしてもそれほど利益になりません。
相談者や依頼者の方に負担をかけてしまうのは申し訳ないのですが、来所をお願いするのが前提という点は、弁護士業が恵まれている点かもしれません。
もちろん、必要があれば出張相談をすべき場合もあります。怪我や病気のため入院中の方、あるいは高齢の方です。いずれも移動が困難な方ですので、このような場合は出張相談を行っています。私の経験上、このようなケースで出張相談を行うと、いつも以上に相談者の方から感謝されることが多いと感じます。世間的にはまだまだ弁護士の敷居は高いようですから、移動できず困っているときに来てくれた弁護士として喜んでいただけるのかもしれません。
弁護士が初回から出張相談を行うことは多くはないはずですが、生き残るためにはサービスの一環として出張相談を増やすべきかもしれないと思った時期もありました。しかしながら、今の私は、特別な理由がない限り出張相談は行っていません。今までに2回、入院中など特別な理由がないのに出張相談を行ったことがあります。いずれも知人の紹介でした。
1回目は、ある士業の方からの紹介でした。相談者(Aさんと呼びます)はその士業の方の顧客でした。その士業の方から、Aさんは事務所に出向くようなタイプの人ではないので出張相談で対応してほしい、と頼みこまれました。どうやらAさんはその士業の方の大口顧客のようです。
特に理由がないのに初回から出張相談を行うのは気が進まなかったのですが、知人の頼みですし、出張相談料を支払うとのことですので、積極的に断る理由もありません。例外的にAさんの自宅で出張相談を行いました。
・・・事務所ではなくAさんの自宅ですので、勝手が違います。いつもの自分のペースで話すことができず、何だか気を使います。Aさんは事件に関係あることもないことも延々と話し続けます。いつもだったらある程度のところで本題に切り替えるのですが、Aさんは私の話をなかなか聞いてくれず、うまくいきません。
いつもより遠回りをしてしまいましたが、何とか必要な情報を聴き取りました。筋そのものは良い事案でしたので、正式に受任しました。
しかし、苦労が待っていました。Aさんは、こちらの都合を考えることなく、休日だろうが何だろうがお構いなしに電話をしてきます。しかも延々と喋り続け、すぐに1~2時間経過してしまいます。同じ話の繰り返しが続くため話を切り上げて電話を切っても、しばらくするとまた電話がかかってきて、同じ話を延々と繰り返します。依頼者の悩みを聞くことが必要な場合もありますが、限度を超えています。私は弁護士ではなく、単なる愚痴の聴き役になっていました。
知人の紹介でもありましたし、Aさんは方針そのものについては私の意見を尊重したので、辞任はせずに最後までやり遂げました。Aさんの対応に非常に苦労しましたが、このときはAさんのキャラクターの問題だけだと思っていました。