司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 この原稿を書いているのは、2012年4月です。独立開業して4ヵ月目に入りました。ようやく落ち着きつつあるところです。開業前後は非常に慌ただしかったので、後回しにしていたものがあります。「ホームページ」です。

 オーソドックスな宣伝方法です。よく、弁護士や司法書士による債務整理のチラシがポスティングされています。本当に弁護士や司法書士を必要としている方にはよいのかもしれませんが、私自身はポスティングによる宣伝をする予定はありません(弁護士倫理上、「品位」の点でどうかという議論もあるようです)。とりあえずホームページくらいは作ろうと考えていました。

 とはいうものの、正直なところ、当初はホームページでの宣伝効果はそれほど重視していませんでした。ホームページを作成している法律事務所はたくさんありますから、多額の宣伝広告費を投入しない限り宣伝効果は薄いと思っていました。「ホームページがないよりは、あった方が印象がいいだろう」という程度の考えでした。

 そのため、ホームページ作成を後回しにしてしまい、開業から約3ヵ月経って何とかホームページを公開することができました(根気よく私の原稿を待って下さったホームページ作成業者さんには、大変感謝しております)。

 ホームページ公開の翌日、当事務所のホームページをみたという電話がかかってきました。あまりに早い反応に驚きました。電話の内容は、「刑事弁護を頼めるか」というものでした。よくよく聞いてみると、どうやら電話の相手は、振り込め詐欺もしくはヤミ金の業者のようで、捜査機関の手が及んだ際に刑事弁護を引き受けてくれる顧問弁護士を探しているようでした。

 せっかくの御電話でしたが、丁重にお断りしました(反社会的勢力の顧問弁護士になることの当否については、ここでは触れません)。独立したての若い弁護士であれば、仕事がなくて困っているだろうから、取り込める可能性があると思ったのでしょう。よくある話です。

 ホームページ公開後の数日間は、電話はあるのですが、業者からの勧誘ばかりです。「先生のホームページを拝見しました。SEO対策は万全ですか?」「今なら,大手検索サイトに先生の事務所ホームページへのリンクが貼れます」などなど・・・。「まあ、ホームページでの集客をそれほど期待していなかったから、こんなものか」と思っていました。

 ところが、ようやく勧誘の電話が落ち着いてきたと思っていたところ・・・。ある企業から電話がかかってきました。私のホームページを観たとのことです。「また勧誘か」と思いました。しかしながら、話を聞いてみると、電話の相手は地元企業の代表でした。地元で若い弁護士がいないか探していたとのことです。たまたまネットで検索したところ、私のホームページがヒットしたとのことでした。すぐに相談を受け,受任に至りました。

 その後も、ホームページを観た地元企業や市民の方からお電話を頂き、相談や受任を受けております。

 ホームページを有している事務所はたくさんあります。「ホームページでの集客はもう古い」という意見もあります。そのため、大手検索サイトに広告リンクを掲載するなど多額の宣伝広告費を投入しない限り、ホームページを作成した程度では宣伝効果は、ほとんどないと思っていたので、意外でした(もちろん、当事務所のホームページを作成してくださった業者さんのお力によるところも大きいでしょう)。

 しかしながら、今後はそうもいかないと思います。平成18年10月、私が埼玉弁護士会に登録したときの会員数は、400人弱でした。現在の埼玉弁護士会の会員数は約640人です(平成24年4月時点)。5年半という短い期間で、会員数は1.6倍と激増しています。これからも会員数は激増するでしょうから、今後はホームページを作った程度では電話一本もかかってこないでしょう。

 弁護士増員により市民が弁護士にアクセスしやすくなるのは賛成ですが、何事にも限度というものがあります。弁護士激増の結果、マンション入り口に「ポスティングお断り」と貼り紙があるのに、なりふりかまわずポスティングをする弁護士が増えるのでしょうか。

 企業に飛び込み営業をかけようと検討していた方もいます(飛び込み営業は「弁護士の業務広告に関する規定」により禁止されています。同規定第5条「弁護士は面識のない者・・・に対し、訪問又は電話による広告をしてはならない」)。

 日本の弁護士も、アメリカの弁護士のように「アンビュランスチェイサー」(=救急車を追いかけて、被害者に対し事件の勧誘をする弁護士)という蔑称で呼ばれるのは、そう遠い日ではないのかもしれません。

 ・・・いや、私のような若手弁護士は、人ごとではありませんでした。「最近の若手弁護士事情」というコラムを執筆できているのは、とりあえずではありますが、何とか事務所を維持できているからかもしれません。

 私を含め、数年後の弁護士はどうなっているでしょう。当然ではありますが、たとえ弁護士業界の競争が激化しても,私はアンビュランスチェイサーになりたくありません。

 そんなことを考えつつ帰宅すると、「ポスティングお断り」と書いてある私の自宅マンションの郵便受けに、今日も債務整理のビラがポスティングされています。



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