〈弁護士の監督懲戒権は裁判所に〉
わが国憲法上、最高の権限を有するのは、選挙により国民から選ばれた国民代表による議会であり、その立法権により、行政も司法も監督規制される。議会による人民主権により規制されるのは、行政権でありその長は内閣総理大臣、規制を受ける司法権の長は、最高裁判所長官だ。この図式の中で弁護士界や司法書士界はどのような位置を占めているのであろうか。
司法書士界は、はっきりしている。国民代表により授権された権限を持つ法務省により監督され、個々の会員の法令違反による懲戒権は法務局長が持ち、行政監督上の便宜から司法書士は自治団体を組織することになっており、その団体には、資格者を団体に強制的に加入させる権限が、法律により与えられている。
この強制加入団体のメリットは、行政にとって監督上のメリットがあるばかりではなく、供給独占を法律により認めることとなるから、司法書士業者を資本主義的競争圧力から保護することになり、さらには、会費という名の営業税を加入業者から簡単な手続きで徴収することが出来る。
弁護士界も同様の仕組みとなっているが、それには強力な団体自治が認められ、立法権は別として、行政庁にはこの団体に関して監督権、懲戒権は無い。弁護士界の自治規範の違法を咎められるのは公正取引委員会くらいのものだろう。
債務整理市場を通して、国民と弁護士との関係は、司法制度改革以前に比べて信じられないほど広くなった。しかし、それに比例して悪評も又、広がった。その悪評の内の一つが弁護士会の懲戒権行使のあり方についてであり、もう一つが、事件に対する弁護士への国民からの不服申し立て取り扱い方についての批判である。
国民に対する営業上の利益を共通とする同業者間で、仲間内の処分規制を公正公平に出来るものとは私には到底思えない。弁護士会自治に関し、そういう疑惑が国民の間に広がっているのだ。
それなら、弁護士の違法に対する懲戒権、監督権を何故アメリカのように裁判所にさせないのか、何故国民はそのような立法措置を講じないのか、改憲論議で共和制の議論がないのと同じように私にとってはこの国の七不思議の一つなのである。
自主懲戒権の正当化理由の一つとして利害対立する紛争当事者への弁護士の関与が指摘されるが、その点、違法弁護士への懲戒権行使については、法にのみ忠実であることが建前のわが国司法権行使に責任を負う最高裁判所および下級裁判所が、同業自治団体がメンバーを裁き不利益を下すよりも、はるかに役割としては相応しいと言えるのではあるまいか。