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 「え?裁判には出席しなくていいのですか?」

 

 民事訴訟の依頼を受けるとき、大抵の依頼者の方が驚いて発する言葉です。書面のやりとりが中心となる民事訴訟では、期日には、原則として代理人である弁護士のみが出席すれば足り、依頼者に出席して頂く必要はありません。民事訴訟で依頼者に出席をお願いするのは、和解のように込み入った話になる場合や、依頼者自身が発言する必要のある尋問の場合くらいです。(なお,調停は具体的な話になることが多いため、私は原則として依頼者の方に出席をお願いしています)。

 

 依頼者が訴訟に立ち会いたいと希望すれば、期日に出席してもらっています。しかしながら、2~3分で期日が終わってしまいます。依頼者は「こんなに裁判って早く終わってしまうのですか。先生が『無理に期日に出席しなくてもいいですよ。』と言った意味がわかりました」と苦笑することがほとんどです。

 

 もちろん、当事者によっては毎回期日に出席する場合があります。当事者を同席させる場合、弁護士には2つのタイプがあります。

 

 1つは、対応を変えないタイプの弁護士です。このようなタイプの弁護士は、当事者がいてもいなくても代理人として通常の対応をするのみですので、私も違和感なく対応できます。

 

 私はパフォーマンスを意識しことがありませんので、対応を変えないタイプなのでしょう。期日に同席した依頼者から、「もっと相手に強く言ってほしかったです」と言われたこともあります。場合によっては、依頼者のために多少のパフォーマンスは必要かもしれません。

 

 しかし、優勢ならパフォーマンスをする必要はありません。粛々とすすめればよいだけです。劣勢でも必要なのはポーカーフェイスであって、過剰なパフォーマンスではありません。相手を罵る品を欠くような行為などもってのほかです。

 

 私は、上記依頼者に対し、「パフォーマンスをすることで有利になるならやりますが、それで裁判所の考えが変わるとは思えません。むしろ過剰なパフォーマンスは印象が悪いかもしれないので,不利になることはあっても有利になることはありませんよ」と答えました。依頼者の方は私の考えをすぐに理解してくださり、かえって信頼関係が強まりました。

 

 もう1つのタイプは、当事者のためにパフォーマンスをする弁護士です。昔は私自身にパフォーマンスという発想がなかったので、初めてパフォーマンスをする弁護士に遭遇したときは戸惑いました。

 「こちらが正しいので一切妥協しない。最後まで徹底的に闘う!」
 「どうぞ争うなら争ってください。かえって真実が明らかになる。真実は勝つ!」

 

 法廷での相手方代理人の発言です。まるでドラマに出てくる弁護士のようなセリフです。

 

 あるとき私は、相手方弁護士の過剰なパフォーマンスに対し、熱くなって反論してしまいました。裁判官も思うところがあったのか、相手方弁護士をたしなめました。すると相手方弁護士が「うるさいな・・・。先生(私)も食いつくね」とつぶやきました。きっと「ただのパフォーマンスなのだから、いちいち反応しないで流してほしい」と言う意味だったのでしょう。

 

 結果として、相手方本人の前で相手方弁護士の顔をつぶしてしまいました。相手方弁護士に多少は花を持たせるべきだったかもしれないという意味では反省しています。

 

 このような過剰なパフォーマンスを演じる相手方弁護士でも、相手方本人のいない場では非常に穏やかで常識的であることが多いです。最初は「とんでもない弁護士だ」と感じますので、そのギャップに驚きます。

 

 それが期日に相手方本人が同席していると、変身してしまいます。十分な経験があり、実力がないわけでもなさそうな弁護士もいました。プロとして自信があるのなら、たとえ依頼者が同席していても自分を大きく見せる必要はありません。それにもかかわらずなぜパフォーマンスをする必要があるのか、不思議でした。

 

 あるとき、相手方本人が暴走しました。私が代理人として介入しているにもかかわらず、私の依頼者に直接連絡してプレッシャーをかけたのです。あってはならないことです。 私は、相手方弁護士に対し、相手方本人の暴走を止めるよう伝えました。 相手方弁護士の返答は以下の通りでした。

 

 「・・・依頼者に言いにくいですね。私の身が危ないので・・・・」

 

 予想外の回答でした。思わずでた本音だったのでしょう。そのときようやく相手方弁護士が過剰なパフォーマンスを演じる理由を理解しました。

 

 何かやむを得ない理由があって依頼を受けざるを得なかったのでしょう。しかし、相手方本人が、相手方弁護士の話を聞かずに暴走するため手を焼いていたのでしょう。対応を間違えれば、相手方代理人自身が、相手方本人から懲戒請求されるかもしれないと恐れていたのではないでしょうか。相手方当事者が同席している場では過剰なパフォーマンスをすることにより、かろうじて相手方当事者との信頼関係をつなぎとめていたのかもしれません。

 

 最終的に相手方弁護士は、相手方本人のいないところで私に謝罪し、十分とは言えませんが暴走を止める努力をしました。

 

 弁護士は依頼者のリクエスト全てに応じられるとは限りませんので、無理筋のリクエストに対しては依頼者を諫めることもあります。依頼者と衝突することもあります。相手方弁護士にも色々な苦労があったのだろうと思います。しかし、依頼者の暴走を止められないようでは、弁護士としてどうなのだろうかと感じざるを得ません。

 

 パフォーマンスなどに頼らなくても、弁護士は依頼者と信頼関係を築けなくてはなりません。パフォーマンスをしなければ築けないような関係であれば、弁護士はただのメッセンジャーに成り下がります。依頼者の暴走を止められなければ、結果的には依頼者自身の不利益になることもあります。
 
 そんな過剰なパフォーマンスですが、当事者からみれば頼もしくみえるのでしょうね。もしかしたら、「やられたらやり返す。倍返しだ!」なんて言い出す弁護士が出てきてしまうかもしれませんね(笑)。



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