司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 去る3月10日の午後1時15分、盛岡地方裁判所の3人の裁判官は、岩手県奥州市の水沢駅前駐車場用地売却住民訴訟の判決を言い渡しました。結論は、「被告奥州市長(小沢昌記)は、(個人である)小沢昌記に対し、1653万円及びこれに対する平成27年3月25日から支払い済みまで年5分の割合よる金員を支払うよう請求せよ」というものです。

 

 その前提として、奥州市が奥州商工会議所に本件土地を随意契約で売却した行為は地方自治法に違反しているもので、違法であると認定しています。つまり、市所有の土地を売却する際は、一般競争入札が地方自治法では原則と定められているのに、それをしないで、随意契約で売却したのは、違法だというのです。この売却行為は例外として認められている随意契約のケースには当たらないというのです。

 

 この判決の裏には、奥州市と奥州商工会議所の癒着の実体を認めたものであると、原告住民の皆様、支援者の皆様、そして私も、確信しています。だからこそ、この判決は、次のように市長個人の損害賠償責任まで認めたものと思います。

 

 私個人としては、200%満足のいく判決です。その理由は次の通りです。

 

 奥州市長の、奥州商工会議に対し、奥州市所有の水沢駅前駐車場用地を一般競争入札によらず、随意契約で売却した行為は、違法な行為であると認定してもらえただけで、この裁判は100%の目的を果たしたと思います。そもそも、この裁判を提起した原告住民の皆様の考え方は、市長のなした本件売却行為が違法であるということをはっきりさせたいという一点にありました。

 

 この判決は、原告住民のその思いに添う内容となっているうえ、奥州市長個人に奥州市に対し損害賠償責任があることを認定しました。この点は、私個人としても、原告住民の皆様も、必ずしも期待していませんでした。特に私としては、この点に重点を置かないで、裁判を進めてきましたので、あまり期待していませんでした。それだけに、望外の喜びです。私個人としては、さらに100%上乗せして満足です。ですから、200%満足のいく判決というわけです。

 

 主文中1、2の却下部分については、原告住民も原告代理人も予測というか覚悟はしていたことであり、いわば織り込み済みでした。ただ、このような主張をなし、争点としなければ、事件の全容が浮きぼりにならないと考え、問題提起したのでした。

 

 原告住民の皆様から、訴訟代理人に選任された身としては、私個人の感想などともかく、原告住民の皆様の感想に関心があります。正直、原告住民の皆様が、この判決にどのような感想をお持ちになるか気がかりでした。

 

 ところが平成29(2017)年3月15日に、原告団代表・鈴木秀悦先生が、所感を書面で発表してくれました。判決を要領よく説明されたうえ、判決に対する所感を述べられていますが、私の印象とほとんどいっしょでしたので、胸を撫で下ろしました。

 

 判決主文とともに、全文を掲載し、報告させて頂きます。

 

◇                    ◇

 

 判決
 主文
 1 主位的請求とした、売却処分行為の無効確認は却下する。
 2 予備的請求とした、小沢昌記及び幹部職員3名に対し市に与えた損失額5958万円を市に支払うよう求める請求は却下する。
 3 被告奥州市長は(個人)小沢昌記に対し、1653万円及びこれに対する平成27年2月25日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
 4 原告らのその余の請求はいずも棄却する。
 5 訴訟費用は4分の1を被告奥州市長、4分3を原告の負担とする。
 ※ 訴訟費用とは訴状の申請手数料(印紙代)13000円、(予納郵券6020円?)

 
 
 所感(原告団代表 鈴木秀悦)

 

 主位的請求(契約の無効)と予備的請求(損害金の支払い)は、裁判所に対しこの事件の真相である契約に至る経緯、背景、悪質性を明らかにするために、敢えて原告が住民訴訟の範疇を超えて主張を行ったもので、却下されることは想定内のことです。言わば、肉を切らせて骨を断つ戦法のようなものです。

 

 市長と商工会議所が癒着し、入札システムへの妨害行為が行われたこと。また、職員のコンプライアンスが欠如し、行政事務組織内部のチェック機能や市の監査機能の不全により、法に定められた手続きの検討が真摯に行われた形跡が見られないなど由々しき事態が起きていました。

 

 市長選挙では商工会議所会頭の千葉龍二郎氏が総括責任者を務め、市長当選後においては商工会議所専務理事の後藤新吉氏が副市長となり、商工会議所への随意契約以外の方法を検討することもなく、価格が折り合うまで不動産鑑定を行い、市と商工会議所は平然と談合を繰り返してきたのです。そのことは、素人の私たち住民にも、行政文書開示請求により入手した復命書等から明確に読み取ることができ、市政を歪めてきた元凶であると確信しました。

 

 住民訴訟の範疇は、「行政処分行為に違法性があったかどうか」、そして「市に損害を与えたか」という極めて狭いものに限定されていることは百も承知しております。もし、この訴訟が「随意契約が違法であり、販売価格はもっと高かったはずである」を前面に出して争っていた場合、他の一般的な住民訴訟と同様に「市長の裁量の範囲」が認められ、住民敗訴となっていたことが容易に想像できます。(※総務省資料:住民訴訟の一部勝訴3.4%、全部勝訴0.5%)

 

この判決は、裁判所がその深層を理解してくれて、単に随意契約が違法であったと断定するだけにとどまらず、小沢市長がなした行為に対し責任を明確にするために、裁判所に敢えて民訴法248条の適用により想定価格を8000万円とし、その差額1653万円を市が被った損害額と認定して小沢昌記個人に填補するよう命じたものです。原告の思いに100%応えてくれたものと確信し、全部勝訴と同等であると考えています。なお、当初予測である「随意契約は違法であるが、損害が発生したとまでは言えない」と判決されれば、一部勝訴となるでしょう。

 

◇                       ◇
この所感を読みますと、原告住民の皆様は、この裁判をよく勉強され、理解され、納得されて、行動を起こしたことが分かります。弁護士が「いい仕事ができた」と胸を撫で下ろすことができるのは、弁護士の腕や努力ではなく、いいクライアント(依頼者)に出会えるかどうかに掛かっていることを、この裁判を通じて改めて知らされました。
(みのる法律事務所便り「的外」第324号から)

 
 
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