〈日本国憲法が改定されてこなかった意味〉
日本国憲法は、昭和21(1946)年11月3日に公布され、国民に広く知らされた。その日本国憲法の効力が発生する施行日は、翌22(1947)年5月3日である。令和7(2025)年5月3日は、78回目の憲法記念日だった。日本国憲法が施行された日は、昭和17(1942)年5月20日生まれの身にとって、満5歳まであと17日ということになる。日本国憲法の意味内容を、全く知ることができなかったのは当然である。
日本国憲法が効力を発生してから、今年(2025年)の5月3日で丸78年が経過した。4分の3世紀が過ぎたことになる。80歳を過ぎている身は78年間、日本国憲法の下で生きてきた。日本国憲法の果たした役割を評価するには、十分な期間が過ぎた。
今、日本国憲法の果たしてきた役割を検証し、日本国憲法の改定、特に9条の改定は必要なのかを考えてみることは大切なことである。拳法9条が創られた理由と憲法9条が果たしてきた役割を明らかにすることは、9条改定の必要性を論じるうえで不可欠である。
日本国憲法は一度も改定されていない。改定されないのはおかしいと言う人もいるが、真理は変わらない。真理はやたらに変わるものではなく、変えなければならないものでもない。変わらないことを苦にする必要もない。
日本国憲法が4分の3世紀にわたり改定されなかったことの意味・理由を吟味することは必要である。それをしないで長く改定されないのはおかしいから改定しなければならないなどと言うのは、その方がおかしい。改定を目標にするなどということもおかしい。改定が何故必要なのかの議論が尽くされたうえで、改定するかどうかを議論しなければならない。
日本国憲法が効力を発生してから4分の3世紀の間、日本には戦争がなかった。83歳のわが身は、日本国憲法施行後の78年間は戦争による命の危険を感じることは全くなく、人権を侵害されそうになったこともない。経済的には十分でない時もあったが、好き勝手なことを自由にやらせてもらえた。曲がりなりにも大学で法律学を学び、司法試験に合格し、2年間国費で法律の実務訓練を受けさせてもらい、地方弁護士を54年を超えて続けられている。これは日本国憲法のお蔭である。憲法9条のお蔭である。平和のお蔭である。
この間、弁護士となってからは、国家権力と闘う裁判も何度も体験した。国家機関や地方公共団体の見解が間違っているという主張を裁判でも何度も強調した。国や地方との闘争は絶えずしてきた。国や地方の首長の悪口とも聞こえる主張もなしてきた。
裁判で主張するに止まらず、多くの本を発行し、司法や、行政や、地方の不当性を訴え、時には法律の不合理性を指摘し、裁判所だけに止まらないで、行政機関にも、首相にも、国会議員にも、地方の首長にも送り付けた。時には首相の人間性を批判する内容の話にまで言及したこともある。
取るに足りない存在だと思われているからだろうが、これまでは、どこからもクレームが付いたことも、何らかの圧力がかかったこともない。相手にされていないのだろうと思ってはいるが有り難い。日本は表現の自由が保障されていることを実感している。周囲から、権力者側からの圧力等を心配してくれる声も少なくない、心配してくれる地方住民もいる。ある程度の圧力などは始めから覚悟はしている。しかし、今のところはそういう心配は一切起きていない。これまでのところ、憲法の保障する基本的人権は守られていることを実感している。
これは、憲法が表現の自由を保障してくれているからである。これまでのところは、権力者も行政も憲法の趣旨に従って行動しているからである。安倍元首相などの独断専行を国民が許していないからである。
〈国民が守ってきた憲法〉
日本国憲法下における日本は、平和を堅持している。これは日本国憲法の存在と、それを大事に守ってきた日本国民の努力の成果である。時には憲法を軽視していると思える政治家の言動は見られるが、時々の政府も役人も、日本国憲法を守ってきたからである。何よりも主権者である国民が憲法を大事にしてきた結果である。
憲法改定を主張していた安倍元首相等も最低限ではあるが、憲法を守ってきたからである。安倍元首相の9条改定の方向には反対するが、日本国憲法は安倍元首相の下でも最低限守られてきたと思っている。そけは、主権者である国民の監視が厳しいからであり、78年間国民が憲法を守ろうという考えが強かったからである。日本国憲法は78年間国民の力で守られてきた。拳法12条が「国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と定めていることを国民が実践してきたからである。
日本国憲法に守られ、今日まで戦争による生命に対する危険もなく、戦争で一人の日本人も殺されることもなく、戦争で一人の外国人を殺すこともなかった。お陰で自由を侵害されることもなく、現在を迎えられている。日本国憲法が果たしてくれた役割には改めて感謝している。
この日本国憲法を守ることは、弁護士の社会的使命であることは勿論であるが、弁護士という立場かなくとも、人命と人権を守ることは、主権者である国民として命懸けでやらなければならないことだと確信している。ましてや地方弁護士である以上、日本国憲法の心と真意を地方住民に知らせ、これを守ることの大切さを伝道する役割を強く自覚している。
日本国憲法は、戦争の悲惨さを知った日本国民によって創られ守られてきた。しかし、戦争の悲惨さを体験した人は年々少なくなっていく。戦争の悲惨さを知る人がいなくなったら戦争放棄の規定はどうなるのか心配だ。日本国憲法がどのような背景で、どのような思いで、どのような経過でできたものなのか、それによってどのような恩恵があったのかを地方弁護士は、地方住民に知らせることが大事な社会的使命である。地方弁護士の社会的使命を語るには、憲法を語らなければならない。
(拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』から一部抜粋)
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