〈日本国憲法制定時の政治家の主要発言〉
日本国憲法制定時における主要発言につき、拙著「旧・憲法の心」では次のように述べました。
「日本国憲法制定における主要な発言を拾ってみることも、9条の戦争放棄がどのような心で創られたかを知る上で意味がある。ほんの一部であるが、紹介する」
「昭和21(1946)年7月9日、衆議院における憲法改正案委員会で、芦田均委員長は、憲法改正の動機を次のように説明している。『此の議事堂の窓から眺めて見ましても我々の眼に映るものは何であるか。満目蕭条たる焼野原であります。そこに横たわっておった数十萬の死體、灰燼のバラックに朝夕乾く暇なき孤兒と寡婦の涙。その中から新しい日本の憲章は生まれ出づべき必然の運命にあったと、内閣はお考えにならないか。独り日本ばかりではありませぬ。戦に勝ったイギリスでも、ウクライナの平野にも、揚子江の楊の蔭にも、同じような悲嘆の叫びが聞かれているのであります。この人類の悲嘆と社会の荒廃とを静かに見つめて、我々はそこに人類共通の根本問題が横たわっていることを知り得ると思います。この人類共通の熱望たる戦争の放棄と、より高き文化を求める要求と、よりよき生活への願望とが、敗戦を契機として一大改革への途を余儀なくさせたことは疑をいれないと思う』」
「これまで何度もこの部分を読んだが、名演説であると思う。戦争では、負けた国だけでなく勝った国においても、国民は戦争の惨禍に泣いていることを端的に言い表している。格調が高い提案理由だ。そして、人類のため、戦争は放棄しなければならないという心がひしひしと伝わって来る。これは、国民1人ひとりに読んでもらいたい。これを紹介したいために、この本を書いていると言ってもよい」
「吉田茂は、同じく昭和21(1946)年6月25日、衆議院における提案理由の説明の中で、戦争放棄はこの改正案の大きな眼目であるとした上で、『此の高き理想を以て、平和愛好国の先頭に立ち、正義の大道を踏み進んで行こうという固き決意をこの国の根本法に明示せんとするものであります』と述べている」
「平和愛好国の先頭に立つという意気込みが感じられる。日本国憲法は、そのような理想と意気込みの中から生まれ出たのだ。世界に誇れる憲法だと確信する」
「また、同年8月27日、貴族院において、幣原喜重郎国務相が次のように述べた。『実際この改正案の第9条は、戦争の放棄を宣言し、わが国が全世界中最も徹底的な平和運動の先頭に立って指導的地位を占むることを示すものであります。今日の時勢になお国際関係を律する一つの原則として、ある範囲の武力制裁を合理化、合法化せんとする如きは、過去における幾多の失敗を繰返す所以でありまして、もはやわが国の学ぶべきことではありませぬ。文明と戦争とは結局両立しえないものであります。文明が速やかに戦争を全滅しなければ、戦争がまず文明を全滅することになるでありましょう。私はかような信念を以てこの憲法改正案の起草の議に與ったのであります』」
「これもまた格調の高い提案理由である。ここも、日本国民1人ひとりに読んでいただきたい。ここでも、全世界の先頭に立って指導的地位を占めようという心で、戦争放棄を宣言するものであることが明らかにされている」
「そして、『武力制裁を合理化、合法化せんとする如きは、過去における幾多の失敗を繰返す所以である』と言い切っている。『所以』とは、理由という意味だから、過去の戦争は自衛とか制裁とかの名の下に行われて来たから、今後は自衛戦争も制裁戦争もやらないという考え方がここでは明示されている。これによっても、日本国憲法は自衛戦争も放棄したものであることがわかる」
〈「自衛」「侵略」を分ける発想はなかった〉
「旧・憲法の心」でも明言しましたが、日本国憲法制定時における主要発言の中に、「戦争」を「自衛戦争」と「侵略戦争」に分けるという考え方は見当たりません。
それどころか、「戦争は、負けた国ばかりではなく勝った国にとっても悲惨である」とか、「武力制裁を合理化、合法化することは失敗を繰り返すことになる」とか、「戦争を全滅しなければ、戦争がまず文明を全滅する」と述べています。どなたの発言も、「自衛戦争」と「侵略戦争」とを分けるという発想はないのです。
戦争は、「自衛戦争」と言っても文明を破滅させるのです。戦争は、「自衛戦争」であっても、武力によって破壊行為に及ぶものです。どのような理屈をつけても、「戦争は、国と国との殺し合い」なのです。9条制定時の日本の主要な政治家は、皆そのような認識に基づき、発言していたのです。
(拙著「新・憲法の心 第15巻 戦争の放棄〈その15〉」から一部抜粋 )
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