〈法制局「想定問答」が伝える真実〉
国立国会図書館のウェブサイトに電子展示会「日本国憲法の誕生」というページがあります。その中の「資料と解説・第4章 帝国議会における審議」という項目には、「憲法改正草案に関する想定問答・同逐条説明 1946年4月~6月」l (以下、「想定問答」と言います)が掲載されています。
法制局は、「憲法改正草案」について枢密院と帝国議会での審議に備え、想定問答を作成したそうです。時間が許せば、じっくり目を通してみたいものです。
「日本国憲法の誕生」の中に、「論点2 戦争放棄」という項目があります。そこには「想定問答」に関する解説が掲載されていますが、それによりますと、法制局は「第9条は全体として侵略、自衛を問わず、すべての戦争を放棄する」と考えていたとのことです。そのことが明確に示されています。ただ、「『自衛権』に基づく『緊急避難』ないし『正当防衛』的行動までなし得ないわけではない」と記されているとのことです。
この考え方には、全面的に賛同します。9条の真意は、その通りだと思います。そのように解釈するのが、素直な文理解釈です。
憲法改正草案の時点では、法制局は「憲法9条の戦争放棄の規定は、侵略戦争だけではなく、自衛戦争をも放棄している」と考えていたことは明らかです。政府は、侵略戦争だけでなく、自衛戦争も放棄する考えで憲法草案を創ったのです。憲法草案の基となったマッカーサー草案も同じ考えだったのです。
それを後日になって、立場によって「憲法9条は、侵略戦争だけを放棄したもので、自衛戦争までは放棄していない」と解釈した方が都合がいいという事情が発生したのです。
ですが、それはそれぞれの立場上の見解です。憲法改正草案は、憲法9条の「戦争放棄」の規定は、「侵略戦争」と「自衛戦争」とを区別していなかったのです。「想定問答」に関する解説を見て、憲法9条の「戦争放棄」の規定の真意を改めて知ることができました。
そして、憲法9条の「戦争放棄」の規定は、侵略戦争のみならず自衛戦争も放棄したもので、「完全戦争放棄」の規定であるとの考えは揺るぎないものとなりました。「自衛戦争まで放棄していない」と主張する方には、是非「想定問答」に目を通してほしいのです。
〈自衛権はあるが自衛戦争は放棄〉
憲法改正草案作成当時、法制局は「自衛権」と「自衛戦争」を明確に峻別していたことを知りました。元々、「自衛権」と「自衛戦争」とは別な概念であり、厳しく区別されなければならないものです。
「自衛権」とは、「他国からの攻撃に対し、自分の国を守るためにやむを得ず実力で防衛できる、国際法上の権利」と角川必携国語辞典は説明しています。法制局も、当時「『緊急避難』ないし『正当防衛』的行動」と説明しています。法制局は、「自衛権」と「自衛戦争」とを峻別し、「改正草案は、自衛権であるが、自衛戦争は放棄した」と考えていたのです。
個人にも、わが身を守るために自衛権はあります。法によっても、「緊急避難行為」や「正当防衛行為」は認められています。個人に限らず、国にもそのような意味での自衛権があることに、異論を唱える人はいないと思います。私も、個人にも国にも自衛権があることは認めます。
ですが、「自衛権があるから自衛戦争ができる」という考えには、断じて賛同できません。「緊急避難」ないし「正当防衛」的行動である「自衛権」と、「戦争」とは全く異なるのです。「戦争」は、「国と国とが武力を使って争うこと」(角川必携国語辞典)です。「緊急避難」とか「正当防衛」とは違うのです。
個人に自衛権があるからといって、わが国では自衛のために拳銃や刀を持ち歩くことは許されていません。時代や国によってはそれを許している場合もありますが、現代の日本では許していません。国に「自衛権」があることと、国に「戦力の保持」、「交戦権」を認めることとは、次元の異なる問題です。
「自衛権はあるが、自衛戦争は放棄した」とする当時の法制局の見解を変えなければ、不都合だと考える立場の人間がいることは間違いありません。日本国憲法が公布・施行された後に、「9条の戦争放棄の規定の存在は不都合だ」と考える立場の国や政治家が出現したのです。殊にも、米国内ではマッカーサー草案を創る当時から、そのような勢力も有力だったようです。
憲法9条が創られた当時は、侵略戦争のみならず、自衛戦争も含んで「完全戦争放棄」であったことが法制局の「想定問答」に明示されていたことを知り、憲法9条は「侵略戦争のみならず、自衛戦争も含む完全戦争放棄の規定である」という解釈に、自信を深めました。
(拙著「新・憲法の心 第15巻 戦争の放棄〈その15〉」から一部抜粋 )
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