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 〈「四十九日方式」〉

 遺産を残す人と遺産を受け継ぐ人が、生前協議書を作成していても、遺言書がない場合には、被相続人の死後に法定相続人全員で作成した遺産分割協議書を作らなければ、裁判所が関与して作成した調停調書や審判書が必要となります。それらがなければ、預金の払い戻しや不動産の登記ができません。

 相続人全員が遺産分割協議書で、遺産の分割方法を合意すれば、法律や裁判とは関係なく、遺産の相続ができます。遺産分割協議書の作成こそ、相続問題解決のゴールといえそうです。

 裁判所の手を借りていては、時間もかかりカネもかかります。最も辛いのは、相続人間の絆に亀裂が入り、親族関係断絶になりかねない争いとなり、その精神的苦痛は筆舌に尽くせないほど甚大となることが多いというのが現実です。

 「人生は、いまの一瞬を、まわりの人といっしょに、楽しみ尽くすのみ」という「いなべんの哲学」を提唱する身としては、この現実は無視できません。そのことを放置できません。残された人同士、遺産分割協議書を作ることが、相続問題では最も大事なのです。そのことを一人でも多くの人に知ってもらいたく、これを書いています。

 拙著「伝家の宝刀」では、遺産を残す人が遺言書を残さないで亡くなったら、できるだけ早いうちに生前協議書があったらその趣旨に従い、それがなかったら遺産を残した人の気持ちを汲んで、相続人間で遺産分割協議書を作るべきであるとして、四十九日の法事の日までには遺産分割協議書を作りたいとして、「四十九日方式のすすめ」という一項を設けました。

 四十九日に特別な意味はありません。ただ、四十九日という仏事の機会を利用するのも、早く解決するため区切りを付けるための一計かと、四十九日までに遺産分割協議書を作ることを勧めたのです。

 「伝家の宝刀」では次のように述べました。

 「『四十九日』は、人の死後四十九日目に行う法事だ。亡くなった人の冥福、つまり、親族など亡くなった人と親しい関係にあった人が集まり、亡くなった人のあの世での幸福を祈るものである。さらには、亡くなった人が生前お世話になった方々に遺族が改めて御礼の気持ちを表す時でもある」

 「この四十九日には、亡くなった人の肉親や特に関係が深い身近な人々が集まる。亡くなった人の法定相続人や亡くなった人から贈与や遺贈を受けるような関係の人たちは、ほぼ全員が集まる」

 「四十九日は亡くなった人の残した権利・義務・財産などを親族などがどのように受け継ぐかをはっきり決めるには、いい機会だ。この四十九日までに、遺産分割協議書を作るやり方を勧めたい。これを、勝手に『四十九日方式』と呼ぶことにする。この四十九日方式を勧めたい。四十九日までに亡くなった人の形見をもらい、四十九日にはもらった人一同で霊前に御礼を言うことはグッドタイミングだ」

 さらに、「これまでに関係者一同が納得し、遺産分割協議書を作れば、遺産相続問題を解決する方法としてはベストだ。遺産分割協議書は、相続開始、つまり被相続人死亡後できるだけ早いうちがよい、長くなると話はまとまりにくくなる。互いに欲も出てくるし、周囲から横槍が入ったりする。法定相続人自身は、『それでもよい』と思っても、連れ添いから『それでは損だ。もっともらえ』などと言われたり、三百代言(資格がないのに弁護士業をする人)やお節介焼の身内等から余計な知恵を吹き込まれたりする。そうなると、まとまる話もまとまらない。骨肉相食む相続争いという迷路に入り込むことになりかねない」と、これまでの経験を述べました。


 〈問題を先送りしないための最良のタイミング〉

 さらに、次のように続けました。

 「『早い方がよい』と言っても、葬儀の日では早すぎる。まだ亡くなって数日では、とても遺産問題を話す気にはなれない。それでは死者を弔う、つまり、人の死の悲しみ、惜しむということが等閑、つまり、いい加減にしてしまい、いかにも『遺産目当』という感じを与える。百箇日も考えられるが、これでは少し間が空きすぎる。四十九日頃がよさそうだ」

 「四十九日に拘る必要はないが、その頃までに決めた方が、後に問題を先送りしないですむ。この頃までは遺産を残してくれた人への感謝の気持ちも強い。あまり日が経つと、遺産だけに目がいき、遺産を残してくれた人のことなど忘れてしまいかねないことになる」

 その具体的なやり方については、次のように述べました。

 「喪主は、四十九日の案内状を出す際に、法定相続人等に対し、四十九日の法事の後で、遺産分割協議書を作りたいことを予め告げる。四十九日前に各法定相続人等の気持ちを確かめ、遺産分割協議書案を作っておく。納得した人からは、署名・押印をもらっておいてもよい」

 「四十九日の法事が終わったら、遺産分割協議書の内容を確認し、署名・押印を全相続人にしてもらう。四十九日前に署名・押印できたら、それに越したことはない。その場合は四十九日の法要の際、それを仏前に供え、分けてもらった人全員で手を合わせて御礼の焼香をする。これで相続争いはなくなる」

  (拙著「いなべんの哲学 第6巻 」から一部抜粋)


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