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 〈個人の生き方に干渉してはならない国〉

 民法は、明治29(1896)年4月29日に公布され、明治31(1898)年7月16日に施行されました。明治憲法下で作れたものです。

 明治憲法では天皇が主権者となっていました。法律は天皇が作ることになっていたのです。民法も、天皇の名のもとに作られました。天皇制を保持するために都合良く作られていたことは間違いないと思います。その民法は、施行後124年経った現在も生きているのです。この間の改正は何度かありました。ですが、明治時代に施行されたものです。

 明治憲法下における相続に関する民法の規定は、天皇主権国家の体制の下で作られていましたので、国も天皇を中心とした一つの家族のように考えられていました。そのため相続法も家を中心に考えられ、家を継ぐという考え方を中心に作られていました。天皇国家、○○家という考え方です。

 そのような根本的な考え方のもとに、相続は家督相続制度という家の後継ぎが、全部相続するのが原則でした。家の後継ぎは、原則として長男であり、女子や長男以外の子どもは相続できなかったのです。

 第二次世界大戦で敗けた日本は、アメリカなどの戦勝国の占領下で軍国主義を止め、軍国主義的傾向のある法律は改められました。天皇主権の明治憲法から国民主権の日本国憲法(新憲法)に変わりました。新憲法は、平等思想で男女平等となり、長男、二男という生まれた順序による差別もなくなりました。

 それにつれて、民法の相続法に関する規定も変わりました。男女の差や生まれた順序による差は、相続に関する法律から削除され、平等に相続することになりました。家督相続は廃止され、均等相続となりました。昭和56(1981)年に寄与分制度が新設されるなどの改正がありました。

 民法の相続に関する規定は、憲法が天皇主権国家から、国民主権国家に変わり、男女平等になったことに従い、原則として長男が一人で相続する家督相続制が廃止され、男女の別なく均等相続制となったのです。

 相続という親族間の問題は、親族間の気持ちに任せるべきで、その時々の勢力が自分の都合がいいように、法律でその内容を決めるべきではありません。そんなことを許したら、個人の生き方まで、国の干渉を許すことになります。個人の命や幸福まで、国によってコントロールされかねなくなります。

 そうなっては、権力を持つ者が独断で思いのままに行う専制政治や軍国主義国家になってしまう危険があります。個人の生き方は、国からコントロールされてはならないのです。国は、個人の生き方に干渉してはならないのです。

 仮に、法律が相続に関する規定を置くとしても、それは当事者間では決めかねる場合に限って、国が補助してやる程度のものとすべきです。


 〈国の都合を許してはならない〉

 個人の問題である相続問題については、国や法律が関与してはならないのです。せいぜい相続に関する法律は、裁判のマニュアルとしての役割を果たす程度でいいのです。そもそも相続問題は、法律や裁判で決めるべきではなく、遺産を残す人、遺産を受ける人など関係者の気持ちで決めるべきことなのです。

 戦後の民法の相続に関する規定は、そういう考えに基づいています。その考え方からすれば、平等ということさえも私的には強制すべきことではなく、個人の気持ちに任せるべきことです。私的問題は、法律より気持ちが大事だということになります。特に形式的、つまり格好の上だけでの平等を国や法が強制すべきではないのです。

 現に、新憲法の下で改正された民法の相続法の規定は、相続に関する当事者の気持ちを最優先にしています。法律の規定より気持ちが大事だということは、ここでもはっきりと認識していなければならないのです。

 国家が個人の生活や生き方に干渉し過ぎては、君主などその時の権力者が自分の思い通りに決め、勝手に行う専制国家となり、軍国主義国家になりかねないのです。日本はそのような明治憲法を反省し、新憲法にしたのです。

 もっとも、これは戦争に敗け、無条件降伏した結果、戦勝国より強いられた感もありますが、その形式はともかく、その内容は正しいと確信します。日本国憲法の下においては、国家は個人の生き方に干渉しないのが原則です。それがあるべき本来の姿です。

 そもそも個人の人権は、国の法律によって与えられたものではなく、生まれると同時に持っているものですから、相続権も国家体制、つまり国家勢力の都合のよいような相続に関する法律を作ったりすることはもとより、国に都合のよいような相続法に関する法律の条項の解釈を許してはならないのです。

 相続問題は、遺産を残す者とそれを引き継ぐ者の問題であり、国とは関係のない個人の問題です。個人が残した遺産を個人がどう引き継ぐかという問題です。遺産を残す者と残された者の気持ちに任せるべきなのです。国が関与すべきことではそもそもないのです。

 (拙著「いなべんの哲学 第6巻 」から一部抜粋)

 

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