〈三聖人・平和の祈り〉
平山郁夫氏(1930-2009)の「三聖人・平和の祈り」という絵に魅了されました。絵そのものの素晴らしさもありますが、世界地図を背景に、釈迦・キリスト・マホメットの3人を描いて、世界平和を祈念する深い思いが伝わってきました。その思いに強く惹きつけられました。平山氏は、広島原爆の被爆体験者だったという話を耳にしたことがあります。
真ん中で手を広げて立つ釈迦の右側にマホメットが立ち、左側にキリストが立ち、互いに釈迦の方に手を差し出しています。私の勝手な思い込みですが、キリスト教社会とイスラム教社会との長く続いている戦争に、釈迦がその仲裁に入っているように見えます。
日本国憲法9条の「完全戦争放棄」の規定と、その釈迦の姿とが、私の頭のなかで重なりました。日本国憲法の「完全戦争放棄」の規定は、この釈迦の姿ではなかろうかと思えたのです。
互いに、「キリスト教が絶対だ」とか、「イスラム教が絶対だ」とか、唯一絶対の神を主張するのに対し、仏教は寛容と慈悲の精神を説いています。「般若心経」の教えは「こだわるな」だそうです。どちらが正しいかより、なごやかで穏やかな方がいいのです。そもそも、正しいかどうかは、その人の考え方次第で変わるものです。「たおやか」という言葉があります。「たお」は、竹が雪の重みでしなる様子だそうです。たおやかでありたいものです。
お釈迦さまがキリストとマホメットの間に立って手を広げている姿は、互いに「自分の主張こそ正しい」とその教義にこだわっているキリスト教徒とイスラム教徒に対して、「こだわらない方がいい」と言っているようにも見えるのです。お釈迦さまが橋渡しをしているように見えるのです。
日本国憲法の「完全戦争放棄」の規定は、「自国の主義・主張を通すために武力を以って解決することはしない」と決め、「戦争放棄」、「戦力の不保持」、「交戦権の否認」を宣言しました。これは世界に模範を示し、地球上から戦争をなくそうとしたものです。「三聖人・平和の祈り」のお釈迦様と重なって見えるのは、私だけでしょうか。
「正義の戦争より、不正義でも平和がいいのです」。正義にこだわりすぎてはらないのです。キリスト教徒とイスラム教徒は、気の遠くなるほど長い間、戦争をしてきました。十字軍の遠征など数限りない戦争を繰り返し、現在も戦争を続けています。その原因は、どちらも「自分が正義だ」とこだわっているからです。この世の中では、考え方の違いはあっても、戦争をしなければならないほどの正義などありません。宗教の問題は、死んだ後にゆっくりと話し合ってほしいと思います。生きている間は、どんな理屈をつけようとも、戦争はしてはいけないのです。
〈描くことで訴えた「戦争放棄」〉
平山郁夫氏は、そのことをこの絵で訴えようとしたのだと思います。日本国憲法の「完全戦争放棄」の規定は、日本国の根本法たる憲法で世界に先駆けて「完全戦争放棄」を宣言し、自らは勿論、世界中の人々に愚かな戦争を止めるように訴えているのです。
平山郁夫氏の「三聖人・平和の祈り」の心と、日本国憲法の「戦争放棄」の規定の心は、同じ心ではないかと私は感じています。
日本国憲法の「完全戦争放棄」の規定は、「日本国憲法の心」であると同時に、「世界憲法の心」とならなければならないのです。日本国憲法は、そのことを世界に訴えかけているのです。
平山郁夫氏は、画家の才能を生かし、「三聖人・平和の祈り」を描くことによって、「戦争放棄」を訴えました。私たちもそれぞれの立場で、それぞれのやれる方法で、「戦争放棄」を訴えたいものです。
このような憲法の下で生きているわれわれ日本人には、日本国憲法の「完全戦争放棄」の規定を世界に広め、「日本国憲法の心を世界憲法の心」としなければならない責務があると確信しています。
日本国憲法の心は、「領土を守る義務がある」などという狭い考え方ではないのです。日本国憲法は、前文で「偏狭を地上から永遠に除去しよう」と言っています。「偏狭」とは、「心が狭くてほかの人の意見などを受け入れない様子」です。日本国憲法は、日本のことしか考えないような狭い心で創られたものではないのです。
もはや理想を掲げるだけではなく、理想を実現する段階に至っています。東京でオリンピックを開催することと歩調を合わせ、国際救助隊を日本に立ち上げたいものです。これこそ、日本国憲法を世界憲法にするための可能性のある、身近な具体策の一つだと確信しています。=この項終わり
(拙著「新・憲法の心 第3巻 戦争の放棄(その3)」から一部抜粋)
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