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 〈「人命と人権を守る」という思い〉

 地方弁護士の社会的使命を語る上では、弁護士法第1条を見過ごすことはできない。弁護士法第1条は、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」と定めている。地方で開業する弁護士にも、弁護士である以上、この規定は当然適用される。

 だが、地方弁護士を50年以上してきた身であるが、この規定が地方弁護士にとって、どのような意味を持つものなのかについては、これまで深く考えたことはなかった。

 今更という感はあるが、地方弁護士の社会的使命を語る以上、弁護士法第1条についても語らなければならない。しかし学問的な話はする能力もないし、その気もない。弁護士法第1条に関し、法的理屈ではなく、私個人のこう解釈すべきだという思いを、一般大衆に対し、一般大衆の一人として語ってみたい。その目線は、法律の専門家ではなく、私の回りにいる一般大衆の目線である。

 「使命」という言葉は、手許にある角川必携国語辞典は、「①責任をもってやりとげるように命令された重大な任務。➁やりとげなければならないと自発的に感じている任務」と解説している。私がここで「地方弁護士の社会的使命」と言うのは、私自身が地方弁護士として、世のため人のためにやり遂げなければならないと自発的に感じている任務のことである。誰かに命じられたからやらなければならないというものではない。

 私が地方弁護士として、世のため人のためにやれ遂げなければならないと思うことを突き詰めると、「人命と人権を守る」ことに尽きる。80歳になってもまだ青臭いことを言っていると思われそうだが、この信念は弁護士になろうと決めた時から変わっていない。むしろその思いは、年を重ねる毎に強くなる一方である。

 人命と人権を守ることが、弁護士の社会的使命であるという思いは、弁護士になろうと決めた時から60年経った今日に至るまで変わっていない。むしろ、歳と共にその気持ちは、より強くなってきている。

 こう思うのは、弁護士法がその1条で「基本的人権を擁護することを弁護士の使命とする」と定めているからではない。弁護士法にそのような規定がなくても、弁護士となった以上は、人命と人権を守ることが、私の社会的使命であると決めていた。弁護士を目指した時から、そう腹を括っていた。この使命を果たすためなら命を懸ける覚悟でいる。

 青臭く、未熟で大人になりきっていないという思いもするが、変な計算のできる大人になどにはなりたくない。最期まで人命と人権を守る弁護士として純粋に生き抜きたい。

 生涯渾身の力を振り絞って、人命と人権がこの世で一番大事であることを国や権力者へ、世の中へ、一人一人の人間へ、特に地方弁護士となった以上は地方住民へ発信し続けるつもりである。人命と人権を守るため、戦争は絶対にしてはならない、させてはならないという考えを発信し続ける。これまでもそうしてきたつもりであり、これからも続けたい。

 そのためなら、どのような権力にも世間にも屈しない。周囲の思惑など気にしない。それは弁護士を目指した当初からの気構えであり、今も変わらない。

 国の機関から評価を得ようなどという気持ちは毛頭ない。国の機関などの都合のよい存在になりたくない。弁護士は、そのような存在になってはならないと、普段から強く意識している。弁護士は、国家権力が国民の命と人権を侵害することを阻止することが、その社会的使命であると確信している。


 〈心を同じくする仲間に支えられ〉

 地方において、心を一つにする弁護士や、報道関係者や、地方住民などと協力して、人命と人権を守るために、戦争絶対反対、憲法9条改定阻止の心を発信し続けてきたし、これからも発信し続けたい。

 心を同じくする仲間には、事務所便りを毎月送り、「人命と人権を守る」「戦争絶対反対」「9条改定阻止」の気持ちを確認し合っている。特定の政党や、政治家に与することはしないが、人命と人権を守ること、戦争反対、9条改定阻止を目指す人とは、仲間として行動を共にしている。利害で結ばれている仲間ではなく、志で結ばれている仲間である。

 その事務所便りは、「的外」と題して平成2(1990)年4月より、令和4(2022)年5月までの32年間、10回を超える手術中も、人工透析治療中も多くの人に支えられ、一度も休むことなく毎月発行することができた。お陰様で令和6(2024)年11月号で415号となる。

 事務所便りを読んでくれている仲間は、1000人を超えている。その多くの人が、「人命と人権を守る」「戦争絶対反対」「9条改定阻止」という信念と、「人生は、いまの一瞬を、まわりの人といっしょに、楽しみ尽くすのみ」という「田舎弁護士(いなべん)の哲学」の伝道師となってくれている。その裾野は、年々広がっている。

 この仲間たちに支えられて、地方弁護士としての商売面もなんとかやれてきたが、地方弁護士の社会的使命の面においても、それなりにやれてきた。仲間、つまり気心が互いに知れていて、志を同じくして、一緒に何かをする間柄の存在が、地方弁護士としての自分の商売面も、社会的使命面も支えてくれている。

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』から一部抜粋)


 「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~16巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
 お問い合わせは 株式会社エムジェエム出版部(TEL0191-23-8960 FAX0191-23-8950)まで。

 ◇千田實弁護士の本
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