司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 〈連続不可分一体行為の分断〉

 

 奥州市が、本件土地の廃棄物の処分費用を支出したのは、①市長及び市幹部職員は、本件土地には、建設廃材が埋設されていたことは公知の事実であり、かつ本件土地購入契約前に市が業者を頼んでなしたボーリング調査の報告書にも、本件土地の地下にコンクリート殻やアスファルト殻が埋設されている旨明記されているのにもかかわらず、建設廃材が埋設されていないと軽信して購入契約をなし、②本件土地の抵当権者である金融機関の求めに応じ、教育委員長が埋設物の撤去費用は市が負担し、所有者や抵当権者には瑕疵担保の責任を追及しない旨の覚書を交わしたため、③市は、本件土地の廃棄物の処分費用を支出しなければならなくなったものです。

 

 判決は、①、②の事実と③の事実を分断してしまいました。その上で、「仮に、本件土地各本契約に至る手続に違法があったとしても、その違法性は、本件各本契約に基づく売買代金を公金から支出する行為の違法性を基礎付けることはあるにせよ(したがって、仮に原告らが、本件訴訟では審理対象とはされていない本件各契約に基づく売買代金の支出行為について訴えた場合の違法性を基礎付ける可能性は否定できない)、前記の通り市有地から発見された廃棄物の処分に関して生じた費用の出捐にすぎない本件公金支出の違法性を直接基礎付けるものでも、前記違法が本件公金支出に承継されるといった性質のものであるともいえない」としたのです。

 

 これは、①、②、③の行政行為が胆沢統合中学校建設用地確保という目的によって、結合された連続する不可分一体の行為であるにもかかわらず、不当に分断し、③の廃棄物処理費用の支出に①、②の行政行為の違法性は承継されないとしたものです。

 

 しかし、これはいわゆる法律理論として言われている、「行政行為の違法性の承継論」について判断したものでしょうが、この連続する不可分一体の行為を先行処分と後行処分とに分断できるものでなく、このような結論は、学説・判例上から見ても誤っていると思います。それよりも何よりも、常識や世間から完全に乖離していて、原告ら住民もその代理人の私も全く納得できません。

 

 法律理論については、やらせてもらえるなら、高等裁判所、最高裁判所まで争っても、この判決は法理論としても間違っていることを明らかにしたいのです。私の考え方が正しいことを裏付けてくれると思われる判例や学説も皆無ではなさそうです。私の主張とその裏付けについては控訴理由書で述べ、高等裁判所に提出するつもりです。ここでは、そのアウトライン(概略)を述べます。

 

 

 〈「違法性の承継」という概念〉

 

 学問の世界では、「違法性の承継」という概念があります。先にした行政行為(「先行処分」ということがあります)の違法性が、後でなした行政行為(「後行処分」ということがあります)に引き継がれ、後にした行政行為が違法となる、という考え方のようです。

 

 学説としては、古くからの通説だそうです。ただ、複数の行政行為が連続して行われなければならないという条件付きのようです。古くなりますが、美濃部達吉教授は「数個の行為が結局において或る単一の目的の為めにし、其の全体の結合に依って其の目的たる法律的効果を発生する場合には、其の総ての行為は其の効果の生ずる法律原因たるもので、其の効果が適法である為めには、其の原因たる総ての行為が適法でなければならぬ」としていたそうです。

 

 本件においては、前記①、②、③の行政行為は、胆沢統合中学校用地確保という単一の目的のためにし、その全体の結合によって中学校用地確保という効果を発生する場合であり、用地確保という効果発生のためには、その原因たる①、②、③の全ての行為が適法でなければならないということになります。

 

 ですが、この判決は、①、②の行政行為は違法であるが、それは③の行政行為には承継されないとしました。これは、前記学説に反するものであると確信します。

 

 裁判官は当然と言えば当然ですが、判例を気にします。そこで、本件のようなケースについての判例を検討してみます。確かに、違法性の承継が認められた最高裁判所の判例はほとんどないようです。

 

 ですが、最高裁判所平成21年12月17日第1小法廷判決は、最高裁として違法性の承継を初めて正面から認めた注目すべき判決と言われています。

 

 事案の内容は、本件と異なるのは当然です。全く同じ事案などある筈がありません。何人の人間がいようと一人一人の顔が違うように、裁判の対象となる事件の内容は、事件毎に違うのです。

 

 この最高裁判所の判決で特に注目したいのは、「2つの行政行為は、同一の目的を達成するため行われるものである」という点と、「後行処分によって、初めて不利益が現実化すると考えて、その段階までは争訟の提起という手段を執らないという判断をすることがあながち不合理であるともいえない」という点です。

 

 この最高裁判決の指摘は、本件にもあてはまるものと思います。前記の通り、本件①、②、③の行政行為は胆沢統合中学校用地確保という同一の目的を達成するために行われたものです。

 

 さらに①、②の行政行為の段階では、不利益が現実化しておらず、③の行政行為によって市の損害が現実化したものです。本件のケースと、前記最高裁のケースは、大事なポイントは共通しています。本件判決は、この点においても、早ければ高等裁判所で、遅くも最高裁判所で見直される可能性があると思います。

 

 「違法性の承継」という学問の分野においても、この判決には問題がありますので、控訴理由書においては、その点も掘り下げてみたいと思っています。ですが、浅学非才の身としては、あまり自信のある領域ではありません。

 

 ただ、75年も生きたという人生経験によって培われた経験則という視点からは、本判決が同一の目的を達成するために行われた①、②、③の各行政行為を分断し、①、②の違法性は、③の行政行為に承継されないとしたことは、納得することができません。原告ら住民の皆様の常識も納得していません。世間も納得していません。裁判所もいずれ分かってくれると思います。

 
 

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