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 判決は、「奥州市は買い取った胆沢統合中学校用地(以下「本件土地」という)に埋設されていた建設廃棄物処理料を奥州市が支払ったこと自体は、違法とは言えない。だから、損害賠償責任は認めない」というものでした。

 

 ですが判決は、それに続けて、次のように述べています。

 

 「なお、証拠によれば、本件仮契約締結前の平成24年7月に行われた本件ボーリング調査の結果には、本件各土地の地中に相当量のコンクリート殻等が存することが明記されていたところ、市において前記調査結果を検討していれば、本件仮契約前に、本件各土地の地中に、本件中学校の建設の妨げとなり得る廃棄物等が存することを把握することは、十分に可能であったと認められるが、そうであるにも関わらず、前記調査結果を精査することもせず、漫然と廃棄物埋設のリスクがないものと軽信し、本件覚書の作成に応じた市やその担当者の対応は、結果的に本件廃棄物の処理のため、市に本件公金支出を余儀なくさせたものであるということができるから、本件訴訟において原告らの請求を棄却したことは、市及びその担当者の対応について問題がないと認めたものではないことを付言する」

 

 この判決(平成29年4月21日盛岡地裁判決)に対する評価は、色々あると思います。原告ら住民の間でも意見が分かれ、一部の人は控訴を断念しました。一部の人は、私に控訴手続を委任し、平成29年5月2日付で仙台高等裁判所に控訴を提起しました。仙台高等裁判所からは、「控訴を受理した。6月22日までに、控訴した理由を書面にして提出されたい」との通知が届いています。

 

 私は、判決があった翌日に、「胆沢統合中学校用地住民訴訟判決に対する所感」を原告ら及び支援者ら住民の皆様に配布しました。その後、平成29年4月25日付で「誤診と誤審~奥州市胆沢統合中学校用地住民訴訟の判決書を読んで」(次回から当コーナーで連載・編集部注)を書きました。

 

 この判決は、評価できる部分と評価できない部分の両面があります。評価できる部分は、市長や幹部職員の一連の行為の中に、違法、不当な行為があると認めた点です。評価できない部分は、「本件土地の建設廃材の処理費用は奥州市が支払った」ということの1点だけに絞り、「そのこと自体は違法とは言えない」とした点です。

 

 判決は前記のとおり、「市やその担当者の対応は、結果的に本件廃棄物の処理等のため、市に本件公金支出を余儀なくさせたものであるということができる」と設定しながらも、「廃棄物処理料を市が払ったそのこと自体をピンポイントで評価すると、市の土地の廃棄物を処理したのだから、市がその費用を払うのは当然だ」としたのです。「市の廃棄物の処理費用を、市が払うのは違法ではない」と言うのです。

 

 そこだけ見ればその通りです。誰だってそう思います。ですが、原告ら住民は、そんなことを裁判所に判断してもらいたくて、この住民訴訟を提起したのではありません。市が、本件土地の廃棄物処理費用を払わなければならなくなった経過の違法性、不当性を暴いてほしかったのです。市が払わなければならなくなったのは、市長以下の市幹部職員がやるべきことをやらなかったことによるものであることをはっきりと認定してほしかったのです。

 

 この判決に対しては、控訴すべきか、しないべきかの判断は、容易ではありません。1審判決がそこまで市長や幹部職員の落ち度を明確に指摘し、「市及びその担当者の対応について問題がないと認めたものではない」とまで明言したのだから、それでこの訴訟の目的は果たしたという考え方もあります。それはそれでいいと思います。ただ、住民の皆様には、そういう判決であることを十分に伝えてほしいと願っています。そうでないと、原告ら住民が敗訴したという点だけがクローズアップされ、誤解されかねないのです。

 

 控訴して、更に市長や幹部職員のリスクマネージメント(危機管理)、コンプライアンス(法令遵守)、インテグリティー(信義誠実)という公務員のあるべき姿の欠如乃至不足を指摘し、反省を促すことも大事だと確信します。住民運動として、初志を貫徹するためには、控訴すべきかも分かりません。依頼を受けて初めて代理人となる身の弁護士としては、控訴すべきかどうかについては、これ以上の言葉が見つかりません。

 

 本件判決に対し、原告ら住民の代理人弁護士としては、言いたいことは山ほどあります。前記「誤診と誤審~奥州市胆沢統合中学校用地住民訴訟の判決書を読んで」に、私の考えの骨子を述べています。この駄文でも、46年間の田舎弁護士体験を通しての、裁判所と、世間や常識との間のズレについて私の印象をまとめています。医療過誤裁判や住民訴訟のような難しい裁判になりますと、裁判官の経験不足による誤審が認められる気がしてならないのです。

 

 先日、私淑しています83歳になる病院の理事長で医師の先生より、拙著「医療過誤裁判に対する疑問」の読後感想文を寄せて頂きました。その中に、「裁判所には、独特の問題解決策があるものですね」と書かれていました。先生は「『原告の主張自体が失当』というのは理解しにくい判断です」とも書いてくれました。とても嬉しくなりました。分かってくれる方がおられ、昇天するほど嬉しいのです。
(みのる法律事務所便り「的外」第325号から)

 
 
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