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見直しの必要性が言われ出している法科大学院制度について、文部科学省の「教育改善プラン」が7月20日、発表された。サブタイトルには、「法科大学院を中核とする法曹養成の好循環への転換を目指して」とある。策定の趣旨にも登場する、この表現は、まさに現在、制度が抱えている課題そのものを言い表しており、少なくともこのプランを作るに当たり、その現実を文科省が直視していることをうかがわせる。

 つまり、合格させられない、人材を輩出できない法科大学院に志望者がこない、という悪循環である。このプラン発表を伝える、ある情報サイトは、「人気回復なるか」という見出しをふったが、この改善プランが目指すものは、もはや理念としての目標達成というよりも、法科大学院にもう一度人を集める、多くの人が目指したくなる存在になる、ということになる。

 「1.法曹資格を有する法科大学院修了生を中心に、法曹のみならず、民間企業や国・地方の公務部門など社会の様々な分野で活躍できるよう、その支援体制を整えるとともに、その状況を広く社会に発信すること」
 「2.司法試験について、平成23年試験の合格率である23.5%から大幅な増加を目指す」

 このプランの成果目標は、その意味で、関係者のもはや「願い」ともいってもいいものを感じる。法科大学院修了者の「受け皿」と司法試験合格率。そこさえなんとかなれば、この大きな負担を伴うプロセス強制が許容され、また、多くの人が法科大学院を、そして法曹界を目指すようになるのだ、と。これは、非常に分かりやすい。

 ただ、残念なことに、これに続くその目標達成のための「具体的な改善方策」をみる限り、この「願い」には非常に虚しさを覚える。

 1 法科大学院教育の成果の積極的な発信
 2 課題を抱える法科大学院を中心とした入学定員の適正化、教育体制の見直し等の取組の加速
 3 法学未修者教育の充実
 4 法科大学院教育の質の改善等の促進

 1については、シンポジウムの開催等を通じて、着実な取組を実施している法科大学院の教育の状況やその成果を広く社会に発信。修了者の進路状況のより正確な把握や就職支援の充実を促進。

 2については、課題を抱える法科大学院に対する改善計画の提出要請、ヒアリング、公表などの措置。認証評価で不適格認定を受けた法科大学院に対する改善状況の報告・確認を徹底し、必要に応じて指導等の措置。法科大学院に対する公的支援の更なる見直し。組織見直しに向けたモデル及びそのための推進方策を提示。

 3については法学未修者教育の充実に向けて、中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会の下に新たな検討組織を設置、検討。

 4については、適性試験の結果と法科大学院入学後や司法試験の成績との相関関係を含め、その内容等について検証、その結果を踏まえて各法科大学院や適性試験管理委員会に対して改善に向けた取組を促進。質の高い教育環境の確保へ研究者教員と実務家教員との配置人数の割合や役割分担について改めて検証。双方向的・多方向的な授業を有効に実施するために必要な適正なクラス規模など法科大学院における学生数の在り方等について検討。法科大学院の認証評価について、実施状況やその結果を踏まえて認証評価の仕組みが適切に運用されているかどうかを検討。必要に応じて更なる改善方策実施。

 要約すると、ほとんどこれが掲載されているプランすべてといってもいいが、これが肝心の前記成果目標とどうつながるのかが見えない。つまり「受け皿」拡大と合格率アップが、これらの先に、本当に描けるのか、描けるとどこまで本当に思っているのか、という話である。目新しさがない、というよりも、もはや手詰まりといってもいい。合格させられない法科大学院をどう生まれ変わらせられるのか、受験指導の位置付けをどうするかはもちろん不透明で、見えてくるのは再編促進での合格率増への期待か。教育内容で勝負できるのか。適性試験とその後の成績の相関関係以下も、この向こうに描くのは質の確保だろうか。

 なによりも一番目に上げる成果の発信というのは、苦しい。今の法科大学院制度の問題の何割くらいが、成果の発信不足にあるという認識なのだろうか。「定評のある」という言葉を冠して、強調したがる関係者意識につながるものをそこにみてしまうが、およそ志望者の目線は、やはり冷かなものにならざるを得ないのではないだろうか。

 ある弁護士は、このプランについて、「やる気がゼロ」と評したが、むしろこれが悪循環から脱することができないまま、人気を回復できない、この制度の現実であるように思えてくる。



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