〈社会勢力や国民による干渉につながるおそれ〉
(「註解日本国憲法」のは、憲法23条「学問の自由」に関する記述の続き)
「(3) 學問の進歩は次の時代の共同の文化財となり、一般的敎養の水準を規定するものであって、その意味では文化の先驅的役割を果たすものであるから一切の隷属から解放されていなければならぬこと」
ここでも、学問研究に国家権力の入り込む余地がないことの理由が、学問の本質から語られています。学問研究は、文化の先駆的役割を果たすもので、これまでの通常人の平均的な水準に立脚する政治や行政が干渉すべき領域ではないのです。
政権担当者には、そのことを特に心してほしいところです。あなた方は、学問研究の専門家ではないのです。政権担当者になったからといって、学問研究の専門家になれたなどという勘違いはしてほしくないのです。あなた方は、選挙で国民によって、選ばれただけで、学問研究家ではない。学問研究に口を出す能力などないのです。
「(4) 學問は單に既存の知識を保存するに止まらず、常に新しい知識を開拓して行かなければならず、そのためには權威の強制よりも、自由な討議と研究に委ねるのが適當であること」
ここも前項と同じ、学問研究に政治権力などは口を挟んではならないものであることが示されています。学問の研究は、専門家である学者が、自由に切磋琢磨する中で、進歩していくものであり、政権も社会勢力も干渉してはならない世界なのです。
「(5) 學問上の進歩及び新發見は一般の常識的な世界觀からみれば奇異に感じられることが多く、常に世間の常識的な見方から反對され、場合によっては迫害されるのであるが、やがて眞理の力によって説得せずにはいなかったということが人類の歴史的體驗である以上、この歴史的な經驗を謙虚に尊重すべきであること」
ここのところが、日本国憲法が態々第23条に「学問の自由は、これを保障する」と謳った直接的理由です。政権などに学問への干渉や弾圧を許してしまうと、いつの間にか社会的勢力が、そして最後には国民までが、学問に干渉したり、弾圧などし、政権や世間の考えに反する学者を「非国民」とが「国賊」などと言うようになることは、歴史の教えるところです。
国民というものは、他の国民を「非国民」などと呼ぶことを好む傾向がありそうです。自戒が必要です。
〈裁判官や弁護士も謙虚でなければならない〉
「註解日本国憲法」の以上の記述を、極めて乱暴ですが、一言にまとめると、「学問研究は、専門家でなければ分からない世界であり、世間や国家機関が干渉してはならない」ということになると思います。「学問は選ばれた人の領域であり、選ばれない人は口を出すな」ということになります。
社会や国や政治は、常識という通常人の平均的水準に従って動くことになりますが、学問研究は専門家の常識や通常人の平均的水準を遥かに超える水準の世界であり、世間や国家機関は干渉してはならない領域だということになるのです。
更に、乱暴な言い方を許してもらえるなら、「専門的知識のない政権や世間は、学問研究に口を出すな」ということになります。裁判所だって、学問には口出しすべきではないと考えます。学問研究に対し異議を唱える者は、学問研究の専門家であるべきで、世間の圧力や権力の干渉は許さないということになります。
裁判官といえども高度な学問研究には、口出しすべきではないのです。法廷は専門的な学問を論じる場ではありません。裁判官だって、そんな能力は無いのです。弁護士ももちろん同じです。高度な専門的学問研究は、選らばれた人の領域であり、裁判官、弁護士は、高度な専門的学問研究において選ばれた人とはいえないのです。
裁判官も弁護士も学問研究に対しては、謙虚でなければなりません。裁判は、社会常識というルールの中で行われるべきであり、それ以上でもそれ以下でもありません。法は社会生活上のルールに過ぎないのです。
「註解日本国憲法」の学問の自由の「趣旨・目的」として書かれていることは、詰めて言えば、前記の通りではないかと思われますが、次項以下でも、チャンスがあれば、もう少し噛み砕いてみます。
これを機に、日本国憲法を掘り下げてみたいという方は、「註解日本国憲法」をお薦めします。学問の自由を掘り下げたい人も、語りたい人も、是非この機会に読んでみて下さい。首相や国会議員の先生方は、同書を読んだ上で議論されているかと思いますが、読んでいない方は、まず読んでみて下さい。読む時間の無い方は、この駄文だけでも読んで下さい。
(拙著「新・憲法の心 第29巻 国民の権利及び義務〈その4〉」から一部抜粋)
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