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 〈日本国憲法で税金はどのような役割があるか〉

 既に指摘したように、日本国憲法は第29条1項で財産権は、これを侵してはならない」と定めました。これは、財産を個人のものとせず、国全体で共有し国民に公平に分配しようとする共産主義体制を採用しないで、財産は国民一人一人のものとし、国は国民の財産権を侵さないで、国民一人一人の努力によって、経済つまり「経国済民」を実現するという資本主義経済体制を取ることを宣言したものです。

 世界では、資本主義経済体制とするか、共産主義経済体制とするかという考え方の違いがある中で、憲法制定権者である日本国民が、資本主義体制を採用した日本国憲法においては、税金にはどのような役割があるのかを見直してみます。

 結論を先に言えば、日本国憲法における税金の役割は、これも既に述べた通り、日本国憲法の究極の価値である個人の尊厳の実現、つまり一人一人の国民の生命と幸福のために役立たなければならないということに尽きるのです。ですから、「日本国憲法において、税金にはどのような役割があるのか」という問いに対しては、抽象的には、「国民一人一人の命と幸福のために尽くす役割がある」という答えになります。

 その答えで、一応正解にはなりますが、あまりに抽象的で大雑把です。もう少し具体的に、日本国憲法において税金が果たす役割を見てみます。

 税金に関する本などには、税金の役割は、①公共サービスの資金の調達、②所得の再分配、③景気の調整――と書かれています。ほぼそのような理解でよろしいのではないかと思います。

 第1の公共サービスの資金の調達という税金の役割は、誰でも分かります。税金を徴収する国の機関である国税庁は「私たちが安心して生活していくためには、警察、消防や道路、公園など、私たち個人や民間の団体の活動だけでまかなうことのできない公共サービスや公共施設が必要です。国や地方公共団体は、このために社会保障の充実、住宅や道路の整備、教育や科学技術の振興など幅広い活動を行っています。このような国や地方公共団体が活動するためには、たくさんの資金が必要ですが、その主要な財源は私たちの税金によってまかなわれています」と説明しています。

 税金の役割として、この公共サービスの資金の調達があることは、誰にでも理解できます。小学生でもすぐ分かるところです。ただ、公共サービスとは、国民の生命、基本的人権にプラスになるサービスであることが要求されていることは忘れてはならないところです。

 現実問題としては、原発は国民が求めている公共サービスと言えるのか、戦力はどうか、カジノ施設はどうかなどという問題があります。このような問題に対する答えを出すためには、「国民の生命、幸福に役立つかどうか」という秤で計ればいのです。


 〈国民の生命、幸福を守るために経済的側面を支える〉

 第2の所得の再分配という点は、少し説明が必要です。「富裕層かより多くの税を徴収し、社会保障給付に充てるといったことをいます」と説明している本もありますが、分かりやすい説明です。その程度の理解で話を進めます。

 憲法第29条では、国民の財産権を保障しています。国民の財産権は、憲法によって保障されています。富裕層から多くの税を徴収するといっても、この財産権の規定がある以上、むやみに税金を徴収することはできません。どこまでそれが許されるかが問題となります。

 税金を徴収し過ぎたら、個人の財産権は保障されなくなり、財産を個人のものとせず、国全体で共有する共産主義に近いものになってしまいます。これでは一生懸命頑張って、働こうとする国民の意欲を無くしてしまうという心配も出てきます。つまり、資本主義経済体制が、競争の中から、「旨い、安い、早い」が生まれるという考えで採用した競争原理が働かなくなる心配が出て来ます。財産権の保障と社会保障のバランスが大事です。

 何でもそうですが、丁度いい加減が難しいところです。所得の再分配という税金の役割をどのように実現するかが、国を治め国民を救済するという経国済民、つまり国家経済の妙味ということになります。具体的は、消費税は何パーセントが適当かなどという問題になってきます。所得の再分配という税金の役割も考慮し、決めなければならないのです。

 第3の景気調整とは、「景気が後退期には減税と国の支出を増加させ景気回復を図り、逆に景気が過熱している場合では、税金や国の支出の削減を図り、景気を調整しようとするものです」と説明している本もありますが、これも分かりやすい説明です。

 ですが、この景気調整の具体的やり方は、現実には相当に難しい問題です。まさに経済学の問題であり、経済政策の問題です。ここは、経済、政治の門外漢である私の論じるところではありません。憲法の解釈問題を考える本稿の目的ではありません。経済学者や政治家に最善を尽くして欲しいと願うだけです。

 「日本国憲法において、税金にはどのような役割があるか」という問いに対する答えは、ひとまとめに捉えれば「国民の生命と幸福を守るために、経済的側面を支える役割がある」ということになりそうです。

 (拙著「新・憲法の心 第28巻 国民の権利及び義務〈その3〉」から一部抜粋)


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