〈国民に十分伝わっていない日本国憲法〉
軍事費増額の動きは、政治家のみならず、国民にも賛同者が増えている。憲法9条の戦力不保持の規定は、もう既に完全に抜け殻となっている。自衛隊を憲法に明記するなどという議論は、現実的になっている。戦力の増強も、当然のことのように議論されている。
日本国憲法は、その12条で「国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と.規定した上、97条では「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年に亘る自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に耐え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」と規定している。
これらの規定は国民全員へ向けてのものであり、国民はこの規定をしっかり認識しなければならない。しかし、この規定は、国民には十分に伝わってはいない。弁護士は格別にこれらの規定を意識して、憲法の伝道師としての役割を果たさなければならない。
安倍元首相の発言などを聞いていると、この人は日本国憲法がどのような考えの下に生まれたものなのかを知らないのではないかという疑問が湧くことがある。日本国憲法が生まれ、しばらく経って生まれた安倍元首相や岸田前首相に日本国憲法が生まれた頃のことを思い出せというのは無理ではあるが、勉強をすれば、当時のことは容易に分かるはずである。一国の首相が、憲法の勉強が足りないのではないかと思えるのだから、国民が憲法の勉強が足りないことなど、当然と言えば当然である。
安倍元首相と同じような政治家も、少なくない気がする。国民の中にも、そういう人も大勢いると思われる。明治憲法から日本国憲法に変わった理由は、憲法改正の動機、憲法の前文、憲法9条の心を理解するだけで分かる。しかし、憲法改正の動機、憲法の前文、憲法9条の心さえも十分に理解していない政治家も少なくない。ましてや国民の多くの人は知らない。この3点を知らせることは、弁護士、従って地方弁護士の社会的使命である。それは直ちにやらなければならない。時期を失ったら、手遅れとなってしまう。
それとともに、日本国憲法の心と真意は、国民の不断の努力によって、保持しなければならないということを国民に、地方住民に知らせることも弁護士の役割である。地方弁護士としても、人命と人権を守ることは、現在のみならず将来の国民のためにもしなければならないものであることを再確認しなければならない。
〈地方弁護士の最も大事な社会的使命〉
この一文は憲法の論稿ではないが、地方弁護士も人命と人権を究極の価値としている日本国憲法の伝道師にならなければならないという思いで、憲法改正の動機、憲法の前文、憲法9条の心と基本的人権の本質と国民の責任について、最近の国際状況や政治状況を考えると、今すぐにも述べる必要があり、いい機会だと思い、その骨子を述べる。
このようなことを国民、地方住民に分かり易く教え説き広め、憲法を守らせるように発信するという弁護士の社会的使命を果たしたい。
地方弁護士の社会的使命は、他にもある。しかし、最も大事な使命は、国民に憲法の心を知らせ、憲法を守らせることにあると確信している。憲法が究極の価値としている人命と人権を守るために、戦争の放棄の規定を国民の力によって守らせることにあると確信している。
戦争に向かうような流れを一日も早く阻止することが、地方弁護士として、何よりも大事なことであると確信している。
安倍政権のような9条改定を目指す政治家や、プーチンのような軍事力で他国を侵略するような政治家の出現を阻止することは、弁護士の最も大事な社会的使命である。そのために憲法の心、憲法の真意を国民に伝道しなければならない。
一人の地方弁護士には、政治力も財力もない。唯一やれるのは、憲法の伝道師となって、憲法を説き広め、国民一人一人に人命と人権を守らなければならないという意識を持ち続けてもらうことではないかと思い、これまでやって来た。これからも、それを続けたい。
特に地方住民に教え説き広め、憲法を守ってもらうために知ってほしいのは、まず、①憲法改正の動機、と、➁憲法の前文、と、➂憲法9条の心と哲学、である。
この機会に、この3点につき、普段思っていることの骨子を述べ、地方弁護士は地方住民に、このようなことを伝道したいという考えを明確にしておきたい。これは地方弁護士の社会的使命として重大だと確信している。そのつもりで、これまでもやって来たが、これからもやり続けたい。これは、地方弁護士の社会的使命の実践である。
(拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』から一部抜粋)
「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~16巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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