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 〈日本国憲法の究極の価値に照らして考える〉

 国の借金は、税金が所得の再分配の役割があるのと同じ役割を果たすことになりそうです。つまり、富裕層から借金をして、貧困層の生活を支え、その借金が払えなくなったら、それも止むを得ないということになります。

 「国は借金をしてもいいのか」という問いに対しては、「止むを得ない」ということになりそうです。ですが、借金を返さないで済ませることは、人の道として望ましいことではありません。それでは秩序が保たれません。そういうことにならないように、国も国民も心しなければなりません。

 これまでところ、日本国憲法下においては、国債が現金化出来なかったという話は聞いたことがありません。ですが、とことん突き詰めて考えると、国債が現金化出来ない、つまり国が借金を払えないということが、絶対に起こり得ないとは言い切れません。

 国は、借金をすることは止むを得ないという答えを出した後、その借金を返せなくなったらどうなるかという問題を考えてみなければならない気がします。

 個人や会社が借金を払えなくなったら、破産ということになりますが、日本国が借金を払えなくなった場合はどうなるのでしょうか。鎌倉・室町時代に武士の貧困を救うため、幕府がその借金を帳消しにさせたという徳政という制度があったとのことでが、そういうことをしなければならないということも、絶対ないとはいえません。

 そういうことも視野に入れ、もう一度「日本国憲法において国はいく借金をしてもいいのか」という問いに対する答えを探してみます。

 日本国憲法の究極の価値は個人の尊厳にあるのですから、国民の生命と基本的人権を守るためには、国は借金をしても止むを得ない場合も出て来ます。そもそも国民主権国家である日本において、国債を持つ国民も国民なら、その国債に対し、返済しなければならない国民も国民です。結局、国債を持つ富裕層は最悪の場合は、その権利を放棄し、他の国民を救済しなければならない場合も出てくるのです。それも富の再分配の一例です。

 ですが、こんなことが許されるのは、個人の尊厳、つまり国民の生命と基本的人権を守るためにやむを得ないとう場合に限られます。憲法29条は、「財差権は、これを侵してはならない」と定めています。国民の財産権は、憲法上保障されているのです。借金返還請求権は立派な財産権です。これを侵害することは憲法29条に反します。真に止むを得ない場合に限られなければなりません。


 〈一人の命も犠牲にしない発想〉

 前述のように税金には、景気調整という役割があると言われています。景気が後退期には減税したり、国の支出を増加させ、景気回復を図り、景気が過熱している場合では、増税や国の支出の削減を図り、景気を調整しようとするものですが、これがまさに経済政策の問題です。

 経済問題に関しては、言う資格はありませんが、「経国済民」と言う通り、国家経済の問題は、国を治めて国民を救うための経済政策であり、政治問題です。憲法は国民の命と幸せを守るように、国家機関に命じています。このことは、国の機関の任にある人は、一時も忘れてはならないのです。

 ここでも憲法の究極の価値は、個人の尊厳にあるという一点に集中して、どうしたら一人一人の命と幸福を守ることになるかを考えればいいのです。一人一人の命と幸福に、より適合する政策を採用すればいいのです。どのような政策がそれに適合するかの判断は難しい局面も予測されますが、一人の犠牲者も出さない方策を取らなければならないのです。

 話はとびますが、「国のために特攻隊に行け」などということは絶対に許されません。一人の命も犠牲にしてはならないからです。財政問題を考える際にも、一人の命も犠牲にしないということを第一に考えなければなりません。日本国憲法の究極の価値は個人の尊厳、つまり一人一人の生命と幸福であることを忘れてはなりません。この秤で計らなければならないのです。この秤は、税金や国の借金を考える場合にも不可欠です。

 このようにいろいろな視点から憲法を考えてみますと、「日本国憲法において、国はいくら借金をしてもいいのか」という問いに対する答えは、「個人の尊厳、つまり国民の生命と基本的人権を守るために、借金をしなければならないという場合には許される」ということになりそうです。

 憲法を論じる際の秤というか物差しは、「個人の尊厳に適合しているかどうか」という一点にあるのです。このことを特に強調したいのです。

 このように考えますと、憲法の解釈問題は学者でなければ出来ないものではありません。法律の勉強をしたことのない人でも正しい判断はできるのです。

 (拙著「新・憲法の心 第28巻 国民の権利及び義務〈その3〉」から一部抜粋)



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