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 〈弁護士バッジに寄り掛かる時代ではない〉

 地方で開業する弁護士が、開業するに当って最初に考えるのは、「ここで開業して食べていけるのだろうか」ということである。弁護士も商売である以上は、それを考えるのは当然のことだ。それを考えない人は、商売人としての資格はない。

 そんな考えを賤しいなどと考える人は、地方で弁護士業をすることは止めた方がよい。商売である以上、客がいなければやっていけない。地方弁護士にとっても、「お客様は神様」だ。商売人は、客があって成り立つ仕事である。

 弁護士法は弁護士の使命として、「社会正義の実現と人権の擁護」を掲げているが、それはそれとして、地方で開業する弁護士は、地方住民にサービスを提供し、カネを貰い、それで生活しているという一面を掘り下げることが必要である。公娼の資格を得ることは、女性であれば難しい試験を取らなくてもなれるが、弁護士資格は司法試験という難関を突破しなければならないという違いはある。しかし、サービスの提供という仕事の本質は同じである。

 他人にサービスを提供し、カネを貰い、それで生活しなければならない身であることは同じだ。ここは芸能人も同じだ。その視点は、地方で開業している弁護士の役割と在り方を語る上では不可欠である。地方弁護士の商売面を語るには、ここがスタートと言うことができる。

 これまでの自分を振り返り、この意識は欠けていた。少なくとも、その意識は不足していた。弁護士バッジと六法全書に寄り掛かり、「お客様は神様」という意識はなかった。それでも商売をやれて来られたのは、資格のお陰で、これまで競争が少なかったからだ。

 地方で開業する弁護士を公娼と同じように取り扱うことは、他の弁護士には異論があろう。公娼と一緒にされることは。芸能人だって異論があるであろう。しかし、芸能人だって、かつては河原乞食などと呼ばれた時代があった。これは、サービスを提供し、カネを貰う商売の本質から生まれるものである。

 弁護士も芸能人も、他人が求めているサービスを提供することを商売としていることは、公娼と本質は同じだ。この認識は、地方で弁護士業をなしている人間には不可欠である。弁護士バッジは弁護士の仕事の本質まで変えるものではない。

 公娼の中にも、花魁と呼ばれる格の高い遊女もいた。芸能人の中にも、文化勲章を受章する人もいる。歌手の中にも、国民的歌手と呼ばれる人もいる。司法試験を合格しているとか、弁護士バッジを付けていることから、「我々は違う」などと思い上がってはいられない。弁護士バッジさえ付けていれば、どの弁護士も同じ評価を受けられるというのも間違いだ。現代では、世の中も弁護士バッジをそれほど有り難がる時代ではなくなっている。


 〈正当な方法で稼ぐ方法の確立〉

 プライドを持つことは大事だが、内容が伴わなければ信頼はされない。弁護士だからといって特別に威張るようなものは何もない。少し勉強して資格を取ったというだけのことだ。

 大事なことは、提供するサービスの内容にある。公娼であっても、その提供するサービスの内容次第では、見下げることはできないこともある。芸能人の中から文化勲章受章者が多く出ている。その人数は、弁護士より多いのではなかろうか。

 地方で開業している弁護士は、客が本当に求めているサービスを提供しているだろうか。弁護士という資格に胡坐をかいてはいないだろうか。心配りや努力もせず、威張りかえってはいないだろうか。今の時代では、さすがに弁護士業を殿様商売と思っている地方弁護士はいないと思うが、弁護士バッジの上に胡坐をかいていると思える地方弁護士は少なからずいる。これまでの自分には、そういう面があった。これを機に見直してみたい。

 地方弁護士には、地方住民が求めているサービスを提供しなかった殿様どころか、人からカネや物を恵んでもらって生活する乞食のようにならないとは限らない。

 最近、地方弁護士の中にも業務上横領罪や詐欺罪で逮捕されたなどというニュースが目に入ることがある。弁護士会から業務停止命令を度々出されている地方弁護士もいる。正当なやり方では、カネを稼げない弁護士がいるということだ。正当なやり方でカネを稼ぐ方法を確立しなければならない。正当なサービスの提供をなし、それに見合うカネを貰うというサービス業の本来の在り方に徹しなければならない。

 地方弁護士は殿様どころか、公娼と変わらないサービスを提供し、カネを貰う商売であることを強く自覚しなければならない。その上で、どのようにしたらクライアントに真に求めているサービスを提供してカネを稼げるかを追求しなければならない。

 他の弁護士からのお叱りを覚悟の上で、地方で開業する弁護士は公娼と同じで、必要悪とも思えるサービスを提供し、カネを貰う仕事であることを、今更という感はあるが、もう一度自覚したい。その自覚に立って、地方弁護士はどのようにしたら、地方住民にとって必要悪的存在から、必要不可欠な存在となれるかを考えなければならない。

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』から一部抜粋)


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