司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>




 

 〈引き継いでいくということ〉

 家族や親族は、長く身近に交り合うことができるという利点があります。長い間、身近に気持ちの交流をする中で、互いに相手の気持ちを認識し、理解し、納得し、歩み寄り、互いにこういう生き方をしようという気持ちが生まれます。ここが、夫婦、親子、兄弟等のありがたい関係です。

 私は、「人生は、いまの一瞬を、まわりの人といっしょに、楽しみ尽くすのみ」という「いなべんの哲学」を秤にして生きるべきだと確信していますから、子どもらにもこの哲学に従って生きてもらいたいのです。この考え方は、生まれた時から親や兄から教えられ、それを引き継いだものです。そして、この考え方を生まれた時からそばにいる子や孫に引き継いでもらうつもりで生きてきました。どこまで子どもらに伝わっているかは定かではありません。

 繰り返し繰り返し同じことを言っていますと、「くどい」と嫌われますが、それでもいつか皆の中に染み込んでいくのではないか、と思っています。繰り返し繰り返し、言ったり書いたりしていますので、私の身のまわりの人で、「いなべんの哲学」を知らない人は、一人もいません。スマートなやり方ではありませんが、本当に分かってほしいことは、格好悪くとも、嫌われてもしっかり伝えたいのです。泥臭く、いなか風で、洗練されていないのが、「いなべん」なのです。

 この「いなべんの哲学」は、子どもの頃から父や母や兄の生き方をそばで見ながら、いつの間にか身についたものです。こんなにも愛情を以て、面倒をみてもらったのだから、この人たちを大事にし、いつか恩を返せるように、その人たちといっしょに人生を楽しみ尽くせるような生き方をしたいと考えるようになったのです。

 親や兄弟から引き継いだこの哲学を、子どもらにも引き継いでもらいたい。大事な人には大事なことは何度でも伝えます。一時的に嫌われることなど気にしていません。

 夫婦、親子、兄弟間で誓いをしたことも,合意書を取り交わしたこともありません。ですが、繰り返し語っていれば、そういう気持ちは、父母や兄弟の間にも、夫婦、親子、兄弟の間にも互いに暗黙のうちにできてきます。

 父や母も亡くなりましたが、父や母の「夫婦、親子、兄弟は、仲良く助け合って生きなければならない」という暗黙の教えは、私たち兄弟全員の心に残りました。子どもや孫にも受け継いでほしいのです。


 〈何より有り難い遺産〉

 私たち兄弟間には、父母の遺産をめぐった争いなどかけらもありません。もっとも争うような財産もありませんでした。それも父母の深い考え方によるものと理解しています。ありがたいと感謝しています。

 仮に父母が多額の財産を残していたとしても、私たち兄弟は、残された財産を奪い合うようなことはないと思います。そういう生き方をすべきだと、父母はその生き方を示してくれました。それこそ、父母が残してくれた、何よりありがたい遺産です。

 私たち兄弟は、曲がりなりにも、世の中で生きぬける人間としての力を、親、兄弟からもらっていますから、親の財産をあてにしなければならない者はいないし、親の残した財産で贅沢をしようなどという気持ちはないのです。そのような生き方を教えられて、それを受け継いでいるのです。これは財産を受け継ぐ以上にありがたいことです。

 この教えを、子や孫に受け継いでほしいのですが、念のために遺産に目がくらむことのないように、財産は残さないことにしています。その代わり子どもが勉強したければ、勉強にかかるカネは出せるだけ出してやることにしています。財産は残さないで、生きているうちに残される者のために使うことにしています。財産を残しておいてやるのではなく、財産は子どもらのために使ってやることにしているのです。

 (拙著「いなべんの哲学 第6巻 」から一部抜粋)


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