司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 〈「木を見て森を見ず」の判決〉
 
 この判決には前記の通り、評価できる部分があります。それは、「なお、証拠によれば、本件仮契約締結前の平成24年7月に行われたボーリング調査の結果には、本件各土地の地中に相当量のコンクリート殻等が存することが明記されていたところ、市において、前記調査結果を検討していれば、本件仮契約前に、本件各土地の地中に、本件中学校の建設の妨げとなり得る廃棄物等が存することを把握することは、十分に可能であったと認められるが、そうであるにも関わらず、前記調査結果を精査することもせず、漫然と廃棄物埋設のリスクがないものと軽信し、本件覚書の作成に応じた市やその担当者の対応は、結果的に本件廃棄物の処理等のため、市に本件公金支出を余儀なくさせたものであるということができる」という部分です。

 

 ここは、よくここまで言い切ってくれたと、嬉しく思います。私の経験では、他の裁判例では、敗訴者の立場をここまで認めて判決書に明示してくれた例は多くありません。

 

 のみならず、この判決は、その後に「本件訴訟において原告らの請求を棄却したことは、市及びその担当者の対応について問題がないと認めたものではない」と続けています。私は、これを読み、この判決は実質的には原告ら住民の勝訴であり、市長及び幹部職員の実質敗訴だと確信しています。原告ら住民は、胸を張るべきです。

 

 「市長に対する請求部分は、棄却する」という主文部分のみを注目し、この判決の理由部分、殊にも付言部分を見落としてはならないのです。この部分にこそ、この判決の真の価値があるのです。

 

 この判決の「市長に対する請求部分は、棄却する」という部分に対する印象は、「木を見て森を見ず」の判決ということになります。個々の木は見ています。しかし、全体を見ていないのです。

 

 

 〈権限の委任を受けていた幹部職員ら〉

 

 以下に「市長以下の市幹部職員に対する請求部分は、却下する」という主文についても、私の考えを述べてみます。

 

 判決は、「(教育長ら6名は、)執行機関たる市長から権限の委任を受けるなどして本件支出行為を行う権限を有していたとは認められず、そのほか教育長ら6名が本件支出行為をする権限を有していたと認める証拠はない。したがって、教育長ら6名が『当該職員』に当たるとは解されない。そうすると、本件各訴えのうち、被告に対し、小沢(市長・編集部注)に対する損害賠償請求を求める部分は、適法であるけれども、教育長ら6名に対する損害賠償請求を求める部分は、法の定める住民訴訟の類型に該当せず、不適法であるにといわざるを得ない」として、市長以外の6名の幹部職員に対し請求することを求める部分を、却下しました。

 

 しかし、少なくとも、教育長は、市教育委員会教育長として、本件土地の売主及び抵当権者である水沢信用金庫との間で、本件土地に埋設されている建設廃材の撤去費用は市が負担すること及び、瑕疵担保責任は追及しないとの覚書を取り交わした者であり、市長より、本件財務会計上の行為を行う権限の委任を受けていた者であることは明白であると確信します。

 

 その他の5名の者も、市長より本件財務会計上の行為を行う権限の委任を受けていた者だと確信します。確かにそのような権限委任を示す委任状などの存在は、証明できないのですが、そのような権限の委任がなければ、市の行政は成り立たない筈です。裁判所に提出済みの各証拠を精査すれば、教育長に限らず、他の5名も市長から本件財務会計上の行為を行う権限の委任を受けていたことは明白になっていると確信します。裁判所は、予断と偏見により、それを見落としたのです。

 

 さらに、この判決は、「教育長ら6名は、地方自治法242条の2第1項4号にいう『当該職員』に当たらない」としたのみならず、「教育長ら6名は、前同号にいう『違法行為若しくは怠る事実に係る相手方』に当たるか否か」については全く判断していないのです。

 

 教育長は、市長より本件財務会計上の行為を行う権限の委任を受けていなかったとすれば、教育長がなした前記覚書を取り交わした行為は、明らかな違法行為となります。教育長がなした違法行為により、市が損害を被ったのですから、教育長は前記「相手方」となる筈です。

 

 教育長以外の5名の者も教育長と同じで、「違法行為若しくは怠る事実に係る相手方」に当たります。しかるにこの判決は、その点については、全く審理していません。審理不尽です。

 

 教育長他5名は、いずれも本件土地の胆沢統合中学校の用地確保という財務会計上の行為を行うに当たり、故意又は重大な過失により、本件土地の地中に建設廃棄物が埋設されていることを見落とし、本件土地を購入するなどの違法な行為に及んだため、結果、本件公金支出(廃棄物処理料支払)に至ったのであり、市に対し、損害賠償支払義務が発生していると確信しています。

 

 原告ら住民の考えとしては、教育長以下の6名の市の幹部職員は、中学校用地確保という財務会計上の行為を行うに当たり要求される当然の義務を履行しないで、建材廃棄物処理費用の支出を余儀なくさせ市に損害を与えたのであり、「当該職員」という立場の他にも「不法行為若しくは怠る事実に係る相手方」という立場にもなっていると確信しているのです。=この項終わり

 
 

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