〈9条に誇りを持とう〉
日本国憲法は、第2章「戦争の放棄」と題して、「戦争の放棄」、「戦力の不保持」、「交戦権の否認」を謳いました。ここでいう「戦争の放棄」は、侵略戦争に限ったものではなく、自衛戦争も含むものであり、「完全戦争放棄」であることは、これまで繰り返し述べた通りです。
「完全戦争放棄」を宣言した憲法は、世界で初めてだそうです。それだけに、「戦争放棄」の規定は、世界に誇るべき宝です。日本には、こんなに素晴らしい宝があるのです。
私たちも、そのことを改めて認識すべきです。「認識」とは、「他のものとはっきり区別して捉えること」という意味がありますが、日本国憲法9条の「戦争放棄」の規定は、今まで世界中どこにもない、「完全戦争放棄」を宣言したものなのです。
過去に遡って世界の歴史を見ても、世界の隅々まで見渡しても、自衛戦争も含み「完全戦争放棄」をした国はないのです。私たち日本人は、日本国憲法9条の「完全戦争放棄」の規定を世界に誇るべきです。
ただ誇るだけに止めず、世界に広めなければならないのです。われわれ日本人が望んだものではありませんが、日本は世界で唯一の核被爆国となりました。昭和20年(1945年)8月6日に広島へ、同月9日に長崎へ原爆が投下されました。
なぜ、日本だけが、地球上で唯一の核被爆国になったのでしょうか。その原因は、後知恵となりますが、いろいろと考えられます。理屈を言えば、いろいろ言い得るとは思います。反省は不可欠ですが、屁理屈を付けて他国のせいにしたりなど、すべきではありません。直接の原因は、日本が戦争をしたからです。日本の自業自得です。
戦争は、過去幾たびも繰り返され、地球のあらゆるところで起こりました。今もどこかで続けられています。それなのに、なぜ、日本だけが核被爆国になったのでしょうか。直接の原因、つまり因縁の「因」は、日本が戦争をしたことです。
さらに、その原因は、お釈迦様が教える「縁」、つまり「めぐりあわせ」ということに尽きると思います。孔子の教える「天命」、つまり「天によってきめられた、どうすることもできない運命」と受け取ることもできると思います。「縁」も「天命」も、人の力が及ぶ範囲ではないものです。
このような結果が出たことはつらいことですが、縁とか天命と考え、受け入れる他ないのです。受け入れた上で、それを活かす途を見つけなければならないのです。そうしなければ、犠牲となった人々に申し訳が立ちません。
世界で唯一の核被爆国となった日本国と日本人には、そのような縁・天命を得て、世界中のどの国も、どの国民も体験したことのない体験をしたのです。その体験を踏まえ、日本国と日本人は、「完全戦争放棄」を憲法に宣言したのです。
この日本国憲法の「完全戦争放棄」の規定を廃棄することは、因縁や天命に逆らうことだと思います。何とも宗教懸かった語り口になってしまいましたが、私はそれほどまでに日本国憲法の「戦争放棄」の規定は、大事なものだと信じて生きてきました。これからも、それは決して変わりません。
このような縁・天命を得た日本国と日本人は、この「戦争放棄」を世界に先駆けて憲法上宣言しました。そのお陰で、戦後72年間戦争に巻き込まれることなく、平和を享受し、繁栄してきました。
反省と感謝を経て、今は恩返しをすべき段階です。これから日本人が世界において果たすべき役割は、世界恒久平和のため、世界中に「完全戦争放棄」の規定を広めることだと思います。
世界中に自信を持って「戦争放棄」の規定を広めるためには、まず私たち日本人が、この規定に誇りを持たなければなりません。われわれ日本人が心の底から誇りを持てなければ、世界の人々に、この規定を勧めることはできません。
〈憲法の心を知って対処を〉
これまで「日本国憲法は、どのような心で創られたか」を繰り返し説明してきました。それは、過去の反省と未来の理想の心で創られたものです。そして、その内容は「二度と戦争による惨禍を繰り返してはならない」ということと、「第三次世界大戦が起きた場合の人類滅亡、地球壊滅を予想し、戦争のない世界を創ろうという理想に燃えたものである」ことを、繰り返し説明してきました。それは、どうしてもそのことを知ってほしいからなのです。
ですが、誠に残念なことではありますが、安倍晋三首相や石原慎太郎氏のように、日本国憲法は「押しつけ憲法」であるなどと悪口を言う輩もいます。しかも、このような言葉を吐く人たちは、政治家や権力者と言われる人です。
この人たちは、政治の心で、政治の駆け引きで、選挙を意識して、「どうしたら選挙で勝てるか」を計算しているとしか思えません。選挙権を持つ国民が真の知恵を持てば、政治家の駆け引きなどに引きずられることはありません。私たち国民は、憲法の心を知って、このような政治家に対処していきたいものです。
日本国憲法が「完全戦争放棄」を宣言するに至った経緯は、大きな犠牲を払った不幸な縁・天命ではありましたが、その結果できた「完全戦争放棄」の規定は、これまで長い歴史の中でどこの国にもなかった画期的なものとなりました。ここから新しい時代が始まるのです。
私たち日本人は、この「戦争放棄」の規定に誇りを持って、世界に広めていかなければならないのです。そのためには、私たち日本人は、「戦争放棄」の規定がどのような心で創られたかを知るために、勉強しなければならないのです。その一助になればとの思いで、浅学非才の身を省みず、このような駄文を書いています。
(拙著「新・憲法の心 第3巻 戦争の放棄(その3)」から一部抜粋)
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