〈地方住民の先頭に立つべき弁護士〉
地方弁護士としての商売に関しても、商売気がなく、地方弁護士としての社会的使命感もないとすれば、何のために地方弁護士になったのだろうか。商売としてはイマイチでも、社会的使命を果たしていると思えば、納得できることもある。
偏差値教育の中で、偏差値を上げることに夢中となり、偏差値を上げて難関と言われる司法試験には合格し、弁護士資格を取り、弁護士となったが、何をやるかという大事なところを見落としたままの地方弁護士が、少なからず見受けられるような気がする。
地方弁護士は、人命と人権を守るという弁護士の社会的使命を果たすため、積極的に行動しなければならない。人命と人権という憲法が究極の価値としているものを守るのが、弁護士の社会的使命であることを自覚し、それを地方住民に知らせる役割を果たさなければならない。それが弁護士法に定められている社会的使命である。
このような考え方は法的だけではなく、弁護士としての生き方というか、人間としての生き方としてあるべきであり、弁護士という道を選んだ以上、そのような生き方をしたい。
弁護士法第1条の規定する弁護士の社会的使命は、地方弁護士になった以上、地方弁護士の立場で具体的に実行することになる。
金を稼ぐという地方弁護士の商売面においては、試験勉強に明け暮れてきた身であることを考えると、多くの弁護士は、商売気がなく、商売上手とは言えないこともやむを得ないという気もするが、人命と人権を守るという弁護士の社会的使命については、その知識があり、その意味を理解し、納得できるはずだから、地方弁護士になった以上、地方住民の先頭に立って、それぞれの立場でやれることはやれるはずであり、やらなければならない。
今、地方弁護士は、人命と人権を守るために、地方住民の先頭に立って、どのような働きをしているだろうか。身の周りの弁護士の活動を見る限りでは、多くの地方弁護士は、人命と人権を守るために、それほど働いているとは思えない。それが率直な私の個人的な印象である。私の周囲には、9条の会に入会し、戦争反対、9条改定阻止などの動きに参加している弁護士は少ない、寂しい限りである。地元9条の会に入会している弁護士は、一緒にやっていた同期の弁護士が亡くなり、今は自分一人になっている。
自らの52年間の地方弁護士生活を振り返り、地方弁護士として人命と人権を守るために、どのような活動をしてきたかを確認し、これから先、地方弁護士として社会的使命をどう果たすべきかを考えてみたい。これまで地方住民向けて駄弁本とも思える本を発行した。その根底にあるのは、いつでも「人命と人権がこの世で一番大事であるから、それを地方住民と一緒に守りたい」という思いを、地方住民に発信し続けていたいという思いだ。この一文も、その流れの中にある。
この連載でも、これまで自分のやってきたことを振り返り、反省すべき点は反省し、より効果的に「人命と人権を守るために戦争に反対する」という考え方を、地方住民に浸透させる方法を見付け出したい。地方弁護士の社会的使命を果たす最良の方法を見付け出せるかは未だに不確かだが、試行錯誤を重ね、知恵を絞り出してみたい。浅学非才の身であれば、難しい作業であるがやってみたい。
〈戦争放棄という哲学〉
弁護士法第1条の「弁護士は基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」との規定は、弁護士は人命と人権を守るために、国民の先頭に立って、国民を導いていかなければならないという意味だと解釈している。まず、そのことをここで強調したい。
地方弁護士は地方住民に対し、人命と人権を憲法上究極の価値とされていることを知らせ、人命と人権を守ることを、地方住民自身がやらなければならないことを自覚してもらえるように、普段から発信し続けなければならない役割を担っていると確信している。
人命と人権が侵害される最大の原因は、戦争であることは間違いない。人命と人権を守るためには、戦争を阻止しなければならない。日本国憲法は、そのような認識に立って創られた。戦争を阻止するのは、最終的には主権者である国民である。国民は、常に戦争を阻止するという強い意識を持ち続けなければならない。日本は戦争を放棄しているということを忘れてはならない。日本国憲法は、戦争を放棄し、人命と人権を守るためにある。それを否定したら、日本国憲法ではなくなる。
日本国民は、戦争放棄という哲学を、この世で初めて生み出した。戦争放棄という哲学は、戦争の悲惨さを、身を以て体験した日本国民の経験から、日本国民の中に湧き出て生まれた人間の生き方の基本的な考え方である。戦争放棄という哲学は、人命と人権を守るためには、戦争を放棄しなければならないということに気付いた日本国民の知恵の結晶である。第二次世界大戦で日本人だけでも300万人を超えるという犠牲者や原爆被災など悲惨な体験から生まれた知恵である。
この戦争放棄の哲学は、日本国民が自ら守らなければならない。日本国憲法は、戦争放棄を宣言した上で、自由及び権利の保持について、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によってこれを保持しなければならない」と明言した。
国民の一人である弁護士は、一人の国民としても、その責任がある。国民としてのみならず、弁護士の社会的使命として、人命と事件を守るため、戦争を阻止するために国民の先頭に立って、不断の努力を尽くさなければならない。それが、弁護士法第1条が規定する弁護士の社会的使命である。
(拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』から一部抜粋)
「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~16巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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