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 〈専門馬鹿から知恵者に〉

 これからの地方弁護士に求められる役割は、知識の切り売りではなく、物事 の道理をわきまえ、正しく判断し、適切に処理する能力、つまり、知恵を提供することであると気が付いたのは、地方弁護士生活を40年近く体験してからである。

 インターネット情報などで法的知識も容易に地方住民の手に入る時代となっている現代では、法律専門馬鹿では、地方住民はカネを払ってくれない。知識だけではなく、知恵を売らなければ、地方弁護士の商売は成り立たないのではないかという思いは、最近特に強くなっている。

 地方住民は、テレビやインターネットから得る知識だけでは、正しく判断し適切に処理することはできず、うっかりすると、断片的知識による判断で大きな誤りを犯すことになりかねない。利口な人ならそれを知っているから、そのレベルの知識では足りず、知恵を求める。

 誰だって悩み事に直面すれば、心より信頼できる人がいれば、その人のアドバイスを受けたいと思うのは当然だ。地方住民は知識だけではなく、どのように生きたらよいかという知恵を提供してくれる知恵者を求めている。

 地方で開業する弁護士は、地方住民のそのような求めに応じなければならない。これまでの地方で開業する弁護士は、そのような地方住民のリクエストに応じてきたであろうか。応じているだろうか。応じられる力があるだろうか。ここのところが重大な問題である。

 50年を超えて地方弁護士業をしてきたが、いまだに自分にはその能力がなく、地方住民の求めに応じてきたとはとても言えない。しかし最近は、地方弁護士は専門馬鹿から知恵者にならなければ、という思いを強くしている。馬齢を重ねただけだが、経験のお陰でいくらか老馬の智も身に付いた気もする。

 長い間、地方弁護士として生きてきた身を振り返ると、このような地方住民の求めには応えてこなかったという思いで、忸怩たるものがある。心の中で深く恥じ、反省している。知識の切り売りに終始し、道理をわきまえた正しい判断や適切な処理の方法をアドバイスできなかったと反省している。

 自分に知恵がなかったのだから、そのような結果が出たのは当然である。そもそも地方で開業する弁護士は、紛争の一方当事者の代理人となって闘うのが仕事だと思い込み、喧嘩犬に終始してきた。どうしたら喧嘩に勝てるかばかりに専念し、知恵を提供しなければならないなどという思いは湧かなかった。司法試験合格程度の法的知識で、法廷闘争に勝つことばかりに専念するという生活を送ってきた。


 〈相談者と悩む思い遣りの心〉

 ところが最近、「法律の条文や判例はこうなっているから、こう闘ったらどうですか」というアドバイスより、「一度の人生だから、こう生きてみたらどうですか」というアドバイスにより真剣に耳を傾けてくれて、「いままでそういう弁護士を探していたがいなかった。やっと会えた」と語ってくれるクライアント(相談者、依頼者)が多くなっている。

 地方住民は、情報は手に入っているが、どのような生き方をしたらよいのかを実際に判断したり処理するためには、信頼できる立場の人からのアドバイスが欲しいという人が多い。地方住民は知識を求めているだけではなく、知恵を求めているということが分かってきた。

 地方で知恵を求めている人は、地方において知恵を誰に求めたらよいかという問題に直面している。道理をわきまえ、正しく判断し、適切に処理するには、問題が発生したときにその問題に即して考えなければならないから、身近で一緒になって考え、知恵を授けてくれる人が欲しい。

 地方住民は、一緒に悩み考えてくれる知恵者を求めている。寄り添ってくれる弁護士を求めている。気軽に相談でき、信頼できる身近な地方弁護士を求めている。そのような地方弁護士の求めに対応できる能力を持たなければ、これからの地方弁護士の商売は難しくなる。

 物事の道理をわきまえて、正しく判断をしたり、適切に処理する能力を持つ知恵者を地方住民は求めている。知識を切り売りするような、一方的に教えるというような地方弁護士ではなく、一緒に悩み、一緒に考えてくれる地方弁護士を地方住民は求めている。

 地方で開業する弁護士は、この地方住民の要求に応えなければならない。地方弁護士は、相談者に寄り添える知恵がなければならないということになる。相談者に寄り添うためには、知恵だけではなく、さらに一緒に悩む思い遣りの心が不可欠となる。

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』から一部抜粋)


 「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~16巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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