〈個々の弁護士の努力が不可欠〉
司法国家というか、司法界が国家を指導するような国となるためには、法曹の数を増やし、弁護士の数を増やし、司法府の力を立法府や行政府に比べ増強しなければならないという考え方には、弁護士という立場にある身としては基本的に賛同する。
日本はもっと司法府が積極的に活動し、日本国憲法の究極の価値観に従って、戦争を放棄し、戦力などにカネを使わないで人命と人権を第一に考える国家としなければならない。そうしなければ、人類史上最高の哲学と確信する戦争放棄を規定した日本国憲法が守られるか不安である。
そのためにロースクールを創り、司法試験合格者の数を500人から一時最大2500人くらいまで増やした。地方で開業する弁護士の数も激増した。それに比べ裁判事件数は増えていない。その結果、地方で開業する弁護士一人当たりの受任事件数は激減した。地方弁護士の仕事量の減少、収入・所得の減少問題が浮上した。このことは、既述した。
その対策として、地方弁護士の働き場の開拓の必要性が語られ、企業内弁護士とか、国家公務員や地方公務員となって、弁護士が働けれる場の開拓が考えられ、一部は既に実現されている。
これは、地方弁護士の働き場所が裁判所に限定されていたこれまでの在り方を変え、新しい働き場所を開拓しようという試みである。それはそれとして大事であることは間違いない。その方向性は賛同する。地方弁護士の活動の場が広がることは有難い。
しかし今のところ、単位弁護士会や日弁連という弁護士の組織の努力は、必ずしも報いられているようには思えない。地方弁護士の働く場所が、大幅に増えたとは思えない。確かに企業内弁護士や地方公共団体で働く弁護士が見受けられるようになったが、それでも弁護士のも数が増えた分や裁判事件数の伸び悩み分を補充できるほどの働きの場の拡大とはなっていない。
地方で開業する弁護士には、個々の弁護士一人一人が、これまで自分自身がなしてきた仕事の範囲を広げる努力が不可欠である。のみならず、これまでなしてきた仕事をより深めることも大事となる。これには地方弁護士一人一人の努力が必要である。単位弁護士会、地方ブロック弁護士会、日弁連などの組織を頼るだけでなく、個々の弁護士一人一人の努力が不可欠なのである。
〈裁判所外に仕事場を求める発想が必要〉
これまでの地方弁護士がやってきた紛争の一方当事者の代理人となって、裁判所という場で闘争してカネを稼ぐだけではなく、その枠を外し、裁判所というリングでの喧嘩犬のような仕事ばかりではなく、裁判所を離れて調整役の仕事をするなどというように取り扱う仕事の幅を広めることが必要である。また、一つ一つの仕事を深める努力が必要である。裁判所という土俵にだけ止まっていないで、裁判所という土俵を離れて、仕事をする場を求めなければならない。
仕事の場を広めるとともに、知識の切り売りだけでなく、知恵を提供するなどというように、取り扱っている仕事をより広げ、より深めなければならない。つまり、専門馬鹿から知恵者に変身しなければならない。
視野を広くし、仕事の幅を広め、深く考え、仕事の内容を深めなければならない。個々の地方弁護士の仕事の内容をより広く、より深くして、個々の弁護士一人一人が自分の職域を広げると同時に、一つ一つの仕事を深めなければならない。表面に見える所だけでなく、地方住民の中に常にある、隠れて見えない問題を堀り下げて地方弁護士の仕事を広げなければならない。
地方弁護士の働く場所の拡大は、地方で開業する個々の弁護士の努力だけでは実現は難しい。全国の弁護士が一致協力して弁護士の新しい働き場所を開拓しなければならない。日本弁護士連合会、各地方ブロック弁護士会連合会、単位弁護士会の活動も大事となる。しかし、それだけでは足りない。地方で開業する個々の弁護士一人一人が自ら取り扱う仕事を広め、深めるという意識と努力が不可欠となる。そのためには、個々の地方弁護士の意識改革と情熱が必要となる。今は、これまでのやり方を漫然と踏襲していて済む時代ではなくなっている。
改めて書くが、この論稿は、地方弁護士の商売という面から、地方弁護士の業務の拡大をどうしたら実現できるかという問題を、あくまで地方で開業する個々の弁護士の視点で論じるものである。地方で開業する弁護士一人一人は、どのようにすればよいかということ、何よりも、自分自身はどうしたらよいかという思い付きを述べてきた。
弁護士という組織で考えるべきことは多くある。それはそれとして、個々の地方弁護士はどう考えたらよいか。つまり、個々の地方弁護士は、もっと商売気を出して、どうしたら地方弁護士の商売が繁盛するようになるかについて考えてみたいのである。
いつまでも地方弁護士は、裁判に関する仕事だけに止まっていては先細りになることは目に見えている。今は地方弁護士の商売は変革の時にある。一人一人の地方弁護士がそのことに目覚めなければならない。
地方弁護士の仕事場を裁判所だけに限定する考え方は改めなければならない。地方住民の悩み事を裁判所だけで解決するなどという狭い考え方を捨てなければならない。地方弁護士は裁判所を離れた場での仕事を開拓しなければ、この先を生きてはいけない。それを組織にだけ任せてはならない。個々の地方弁護士一人一人が全力で改革を目指し、努力しなければ、地方弁護士の商売は成り立たないところまで来ている。
(拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』から一部抜粋)
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