〈分かっていない人たち〉
「なぜ、学術会議推薦者除外問題は見逃せないのか」。この問いに対する答えも、これまで述べてきたことで、「国家権力が、学問の研究や、学問に関する人事に干渉したら、学問の自由が保障されなくなる恐れがあるからだ」ということになることは容易に分かります。極めて簡単です。小学生でも分かりそうです。
ですが、一国の首相は、分かっていないようです。安倍元首相や菅前首相も、その取り巻きも分かっていないようです。そのような人物に日本国の舵取りを任せているのは、私たち国民です。
その結果、菅政権は安倍政権の路線を引き継ぎ、日本学術会議が推薦した学者を、首相が任命を拒否するという暴挙に及んだのです。このことが学問の自由を保障した憲法23条の趣旨に反することを菅首相は分からないようです。それでは困るのです。
そのような日本国憲法の理解では、世界史上最も優れた哲学的思想である「戦争放棄」の規定が軽視ないし無視されかねません。この駄文は、菅首相に読んでもらいたいのです。
野党の国会議員の先生方や、学者や、知識人や、国民の多くの人が、なぜ、任命しなかったのかの理由を具体的に明らかにしてほしいと菅首相に強く求めました。当然のことです。ですが、菅首相は、それには答えず、「総合的、俯瞰的見地より任命しかった」などと答えるのみでした。具体的理由は明らかにしていません。何度聞いても同じ答えで、野党議員から「壊れたレコードみたいだ」と馬鹿にされても、平然と同じ答えを繰り返しました。
ここまで厚顔無恥でなければ、政治家にはなれないものでしょうか。首相にはなれないものでしょうか。恥も外聞もありません。良心はないのでしょうか。良心をなくしてまで政治家などにはなりたくありません。
安倍元首相のモリカケ問題や、「桜を見る会」問題などにおける国会答弁などの様子を見ていると、平気で嘘をついているようにみえて仕方がありません。読者諸氏の目には、どのように映っているでしょうか。
〈本当のことは言えなかった菅首相〉
嘘をつく人が悪いのは当然ですが、嘘を見抜けない国会議員にも、国民にも、全く責任がないとは言い切れません。最近は、警察も裁判所も、嘘を見抜けないと思われるケースがあるような気がしてなりません。
裁判所は立証責任などという法律理論ばかり頼り、自ら真実を見極めようと氏何位裁判官が見受けられるような気かして、がっかりしています。暗記した知識だけではなく、感性と心で嘘を見抜く力が必要です。良心に従ってほしいのです。
菅前首相は、本当のことが言えなかったのだと思います。安倍政権や菅政権の考え方に異を唱える学者を日本学術会議の委員にしたくなかったのです。そのことをストレートに言ったら、憲法違反は明白となり、首相や政権に対する批判は一層強くなるので、本当のことは言えず、壊れたレコードみたいに「総合的、俯瞰的に判断して任命しなかった」などと曖昧な答え繰り返したのです。「なぜ、任命しなかったのか」の具体的な理由を求められているのは分かっていながら、はっきりとしない答えを繰り返してやり過ごそうとしたのです。
ここでは、その本当の理由は何かを子細に検討することはしませんが、安倍・菅政権の憲法に対する考え方と異なる考え方の学者を排除しようとしたのではないかと疑われても仕方ありません。憲法改定、特に9条の改定に、異を唱えそうな学者を排除しようという考え方のように思いますが、いかがでしょうか。
そういう考え方には、命懸けで反対します。一歩でも戦争に近付く考え方には反対の声を上げ、吠えるのは弁護士の役割です。憲法の番犬の役割です。そういう思いですから、こんな駄文を書いているのです。
(拙著「新・憲法の心 第29巻 国民の権利及び義務〈その4〉」から一部抜粋)
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