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 〈「公共の福祉」は国民の自戒の言葉〉

 

 他方、憲法12条は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う」と定め、13条では、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と続けています。

 

 そこで問題となるのは、基本的人権と公共の福祉とは、どのような関係となるのか、という点です。この問題に対しては、これまで自分自身が納得できる説明ができませんでした。最近、それができそうだという思いが湧いてきました。それは、前記のように、公共の福祉という言葉は、国家機関側の言葉ではなく、国民側の言葉だという思いに至り、納得できる説明ができるという思いに至ったのです。

 

 そもそも憲法は、主権者である国民が創ったものであり、国民が国家機関に命じたものでありますが、国民自身の在り方は憲法上どうなっているのだろうか、と考えるようになりました。

 

 そのように考えていましたら、憲法は、国民側が国家機関側に対して命じているものですが、その憲法の中に、国民が国家機関に命じているものの他に、国民自身が自らを戒めている規定があることに気が付いたのです。国家機関に命じている主権者である国民自身の心構えを宣言した部分もあることに気付いたのです。

 

 国民の基本的人権は、主権者が主権者のために奉仕、つまり自分の利害を離れて尽くすべき国家機関に侵害されるなどということになったら、本末転倒です。主権者である国民は、その使用者である国家機関に対し、国民の基本的人権を絶対に侵してはならないと命じました。他方では、国民自身がこの基本的人権を自分で注意して間違いを侵さないようにしなければならないと自戒しているということに気がつきました。「公共の福祉」という言葉は、その国民の自戒の言葉なのです。

 

 つまり、主権者である国民は、憲法によって、国家機関に厳しい命令をなしていますが、その憲法の中で、主権者である国民自らも「こうしなければならない」という自らの心構えを憲法上に宣言したのが「公共の福祉」という言葉だと理解すれば、公共の福祉が憲法上に存在することが納得できるのです。憲法の基本的人権に関する規定の中には、「国民が国家機関に命じている部分」と、「国民自身の心構えに関する部分」とがあるのです。このような目で日本国憲法第3章の「国民の権利及び義務」の各条文を解釈すれば、よく理解ができます。

 

 憲法30条は、「国民は法律の定めるところにより、納税の義務を負う」と規定していますが、これは主権者である国民が自ら納税の義務という国民としての義務を宣言したものです。国家機関からの国民に対する命令ではなく、国民として当然の義務を国民自らが憲法の中で宣言し、国民の心構えを明らかにしたものです。

 

 

 〈「基本的人権」との矛盾がなくなる〉

 

 このように考えますと、公共の福祉は、国家機関側がこの言葉を用いて国民の基本的人権を制限できるというものではありません。あくまでも、国民の側の自戒の言葉です。いわば、個々の国民の心構えを宣言したものですから、この言葉を国家機関が用いて、法律など国民の基本的人権を制限する根拠とすることはできないのです。

 

 国会は、「公共の福祉」を理由に、国民の基本的人権を制限する法律を創ることはできないということになります。裁判所は、「公共の福祉」を国民の心構えと把えて、それも判決の根拠とすることは許されるのは当然です。裁判所が国民の心構えを尊重し、それを裁判する際の重要な根拠とするのは当たり前だからです。

 

 このように考えることによって、日本国憲法に「公共の福祉」という言葉の存在することと、公共の福祉と「基本的人権」との関係を矛盾なく説明できそうです。
(みのる法律事務所便り「的外」第323号から)

 
 

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