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 〈廃止まで使用すべきでない遺留分制度〉

 父は、40年間自分と一緒に家業に従事してきた長男にすべての遺産を取得させ、家業の引き継ぎと残された妻の世話をしてもらいたいと思い、「長男にすべてやる」という遺言書を書いたのに、どうして法律が二男の法定相続分の半分は遺留分として、二男に取得させなければならないなどと、決め付けることが必要なのでしょうか。

 昭和56年の改正の際に、廃止すべき制度でした。それをしなかったために、遺言書があっても、遺留分の請求によって、骨肉相食む相続争いは絶えないのです。

 被相続人が40代、相続人が10代の「40-10時代」なら、子らの生活のためという存在理由があったでしょうが、被相続人が80代、相続人が60代の「80-60時代」においては、遺留分制度は存在しなければならない理由はなくなっています。昭和56年の相続法改正の際に、遺留分制度は廃止すべきだったと思います。いまだにこの制度が原因で、相続問題は争いとなることが多いのです。

 遺留分という法律上の制度は残っていますが、「楽しく生きるための相続」を実現しようとする人は、遺留分は請求しない方がいと確信します。裁判所も弁護士も、被相続人が残した遺言書を全面的に実現するために、遺留分という制度を使用しないように心掛けた方がいいと思います。

 「楽しく生きるための相続」を目指すものとしては、遺留分制度の廃止を主張します。その法律が廃止されるまでは、骨肉相食む争いを回避するため、遺留分の主張は自粛したいものです。場合によっては、遺留分権の主張は、権利濫用として認めないという裁判も必要な気がします。

 遺留分で骨肉相食む相続争いとならないためには、遺留分権者は遺留分を請求しないで、他方遺産を一人占めする人は、他の相続人にも何らかの形で、それ相応に分けてやるなどの方法で歩み寄るべきです。

 法律に時代が合わなくなったら、改正すればよいのですが、法律の改正はそう容易にはできません。法律の内容が時代の進歩に付いていけない場合が出て来ることは少なくありません。時代遅れの法律に従わないで、その時代に合ったやり方をした法が合理的なことなどいくらでもあります。民法の相続法の定めも時代遅れとなり、その時代の皆の気持ちに合わなくなったら、その時代の皆の気持ちに合わせて、誰もが納得できる遺産分割をするのが正しいのです。


 〈法律に従ってもおかしいものはおかしい〉

 「40-10時代」と「80-60時代」では、相続に関する考え方が変わるのは当たり前です。そこに気付かないなら、感性が鈍いと言われても仕方がありません。法を作る国会議員も、争いを裁く裁判官にも、争いの代理人になる弁護士にも、感性は鋭くあってほしいものです。「80-60時代」の現在は、遺留分制度は廃止すべきですが、それができるまでは、遺留分の利用を抑えるべきです。

 繰り返しますが、遺言書を作った被相続人の気持ちの気持ちを尊重し、遺留分権がある立場の人が遺留分請求権を行使しなければ、それだけでこの問題は解決します。そうすれば、法の改正も権利濫用の裁判もいりません。遺留分権者の気持ち一つで解消できます。他方、遺言で被相続人の遺産を一人占め出来る立場の人も、他の相続人の気持ちを考え、他の相続人が納得できるように歩み寄るべきです。他の関係者の気持ちも大事にしなければなりません。

 父が80代となり、高校卒業と同時に一緒に40年以上家業に従事してきた60代となった長男に、工場と家を相続させ、家業と妻の世話をしてほしいという願いを込めて作った遺言書に対し、父母や長兄から東京の大学を出してもらい、東京でサラリーマンとして40年近く働き、東京に家も建て、間もなく定年退職し、退職金と年金をもらえる二男が遺留分を長男に請求することに、違和感を感じないのは、感性が鈍すぎます。

 法律に従えば、二男の遺留分を請求するのは当然であり、それでよいなどという考え方はおかしい気がします。法律に従ってもおかしいものは、おかしい。おかしいと感じない方がおかしいのです。

 法律だって。私たち一般通常人の感覚にビッタリしないものがないとは言えません。「法に従っているからそれでよい」などという考え方では、「人生は、いまの一瞬を、まわりの人といっしょに、楽しみ尽くすのみ」という、「いなべんの哲学」は、実現できないのです。「楽しく生きるための相続」を実現できません。

 (拙著「いなべんの哲学 第6巻 」から一部抜粋)


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