〈相談だけではカネは貰えないという問題〉
地方弁護士が家庭医的存在になることは望ましいが、実際は地方弁護士が家庭医的存在となり、地方住民の日常生活の中で発生する心配や不安の相談に関わって、収入を得ることができるかどうかということが、現実的な問題である。
私のこれまでの経験では、裁判事件にならないとカネは貰いにくい。相談だけでカネを貰うことは、現実には相当難しい気がしている。そこに、地方弁護士は家庭医的存在になって、商売が成り立つかという問題がある。ここのところは、地方弁護士の当面の収入という視点に立つと、いまだに見通しが立っているとは言い難い。
相談だけで解決すると、地方のクライアントはカネを払わなければならないという意識が薄く、弁護士の方もカネの支払いを請求することはほとんどしない。手土産程度で終わってしまうことが多い。それがこれまでの地方住民と地方弁護士との相談事件の商売の実態だ。
昔から相談料は安いものという意識があり、最近では相談料を一回目は無料としている地方弁護士も圧倒的に多い。「相談はタダ」を看板に掲げている地方弁護士も少なくない。最近のクライアントの中には、相談はタダと思い込んでいる人も少なくない。「電話で無料相談を受けたい」などという人も少なくない。
地方弁護士としては、相談は無料として、まず相談に来てもらい、その相談の中から裁判事件などを掘り出そうという考えである。それはそれとして理解できる。まずはクライアントが弁護士事務所に相談に来てもらうことは、商売として大事なことである。そこから裁判事件などの受任に発展していくことを期待して、相談は無料というやり方も、商売のやり方としてはよく分かる。
しかし、地方住民の日常生活の中で発生する心配や不安を解消してやること自体を目的とする相談に関しては、それ相応の料金を支払うという意識がクライアントに定着してもらえるなら、地方弁護士としては、相談だけでも収入が得られ、家庭医的存在へと変身することができるのではないか、という思いもある。
これまでのようなやり方では、相談だけではカネは貰えない。相談だけならカネは貰わない、払わないという地方弁護士とクライアントの間の暗黙のルールのようなものをどこかで、どのような方法かで解消しなければならない。
〈医師の世界と共通した課題〉
糖尿病、高血圧症などの生活習慣病が悪化し、慢性腎不全症となり、それがさらに悪化し、人工透析療法しかないと言われてから食事療法をして、5年8ヶ月間の透析導入を延ばすことができた。そのお蔭で日進月歩する医療の中で、最新の医療を受けられ、健常者と変らぬ状態となった。
そのきっかけは、食事療法だった。食事療法の効果と食事指導の必要性を痛感した。しかし、食事指導に対する報酬の低さにびっくりした。この点は、地方医と地方弁護士とは類似性がある。食事指導は高度な専門知識と豊富な経験を持つ医師でなければ、適切な指導は出来ないし、短い時間の中で指導は出来ない。
そのような食事指導に対する国が定める報酬基準は、驚くほど低い。数分で書ける毎回決まった内容の、糖尿病や高血圧症の処方箋を書くより食事指導の方が安い。これでは食事指導は採算が取れない。
食事指導は、健康問題では極めて大事なことなのに、地方医は商売上、これに力を入れることはしない。病院によっては、食事療法を回避するようにと、医師に求めている経営者がいるという話を耳にすることが多い。
このことは患者にとっても不幸なことであり、改善されなければならない。これまで患者の立場で機会のある毎に食事指導の報酬を上げるよう述べたり書いたりしてきたが、実現にまで至っていない。いろいろな問題点もありそうだが、食事療法の効果の絶大さを知れば、食事指導の報酬は大幅に増額しなければならないということを理解してもらえるはずである。地方弁護士も相談だけで裁判をするより効果が上がった場合には、それ相応の報酬をもらうべきであり、クライアントを説得すべきである。
地方弁護士が地方住民の日常生活の中で発生する心配や不安を解消し、紛争や裁判になることを未然に防止することは絶大な効果があると確信している。経済取引に関するアドバイスで、クライアントが大きな得をするケースもある。
しかし、このような仕事に対する評価、特に金銭的評価は、ほとんどゼロに等しいというのが現在の状況である。ここの改善は急務である。相談料を高くすれば、クライアントは来ない。高度な知識や深い経験を活かし、大きな成果を上げても相談だけではカネは貰えない。このところをどうするべきかという問題は、医師の世界だけではなく、地方弁護士の世界にもある。なんとかしなければならない問題である。
(拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』から一部抜粋)
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