〈誤信する危険〉
この判決に、不服を申し立てなければ、市長以下市幹部職員のみならず、奥州市の住民まで、「あのやり方は、合法なのだ」、「あのやり方でいいんだ」などと誤信することになりかねないのです。この誤信は、誤診や誤審以上に危険です。そのような誤信を市長以下の市職員のみならず、市民まで持ってもらっては、この裁判は何のためにしたのか分からなくなります。この裁判をしたため、かえって、市長以下の市職員に、「自分たちのやり方は正しかった」などとの誤解を受けかねないのです。もし、この判決に対し控訴しないなら、市民も控訴しなかったのだから、原告ら住民も納得したのだろうと思い込む懸念さえあります。
私の力量が不足であれば、もっと力のある弁護士を頼んでも、原告らとその支援者ら住民の「納得できない」という思いを控訴という形で示し、原告ら住民の思いを通すべきだと確信します。他の弁護士が担当するようになっても、側面からサポートするつもりです。
「誤診」とは、「医師が診断を誤ること」(角川必携国語辞典)です。「診断」とは、「医師が患者を診察して、病状を判断すること」(前同)です。「診察」とは、「医者が病名や病状などを知るために、病人のからだを調べること」(前同)です。
医師は、患者を診察し、病人のからだを調べるのです。医師は、患者や病人を診るのです。昔の医者は、患者の顔色をはじめ、患者のからだを調べて健康状況を把握しました。ピンポイントで患部だけを見て、患者の顔を見ないなどという医者はいませんでした。「私は、患部だけ見て、患部だけ治療したから、患者が死のうと関係ない」という医者はいませんでした。ですが、最近では、「私は患部だけ見れば、自分の役目を果たした。患者の生死にはかかわりがない」という態度の医師がないとは言い切れません。患者や患者の家族は、納得できるでしょうか。
〈経過での過ちを認めるか否か〉
今回の判決は、「そのような治療をしなければならなくなったのは、それまでの診断・治療に過ちがあったからであるが、その患部の治療方法そのものは、そうしなければならないのだから、止むを得ないと言うことになる」というもので、それまでの医師の誤診は問題ではないと言っているのです。
問題は、この場合に、医師側の落ち度を認めるか否かにあるのですが、この判決は、それまでの診断・治療には過ちがあったが、その患部に対する治療方法としては、過ちがない。それまでの医師側の過ちはあったと認められるが、それは審判の対象とはしないから問題としないというものです。
それまでの医師側の過ちがなければ、その患部が発生しなかったのに、医師側の過ちによって発生した患部そのものの治療に過ちがないから問題はないとした裁判所の判断は、一般通常人の感覚や世間の常識からは、受け容れられないのです。納得できないのです。
奥州市の市長以下の幹部職員たちは、本件土地の地中には、売主である建設会社が埋設した建設廃材が埋設されていたことは公知の事実であり、仮に知らなかったとしても、ほんの少しの注意を払えば知ることができたのに、購入前に市が業者を頼んで本件土地のボーリング調査をなし、その報告書には、本件土地の地中にはコンクリート殻やアスファルト殻が埋設されているという報告が出ているのにこれを無視し、本件土地を購入した上、もし、本件土地に建設廃材など埋まっていた場合には、その埋設物の処理料は市が負担してほしいとの抵当権者である金融機関の要請を受諾する覚書を取り交わしたのです。
そのような経過で、建設廃材が埋設されている本件土地を購入した市長以下の奥州市幹部職員が、「市有地の埋設物の処理料を市が払うのは当然だ」などと主張するのは、「盗人たけだけしい」と言わなければなりません。
さすがに、被告奥州市長もそこまでは、この裁判で主張しているとは思えませんが、裁判所は、勝手に法律理論を捏ね回し、「仮に、本件各本契約に至る手続に違法があったとしても、その違法性は、本件各本契約に基づく売買代金を公金から支出する行為の違法性を基礎づけることはあるにせよ、市有地から発見された廃棄物の処分に関して生じた費用の出捐にすぎない本件公金支出の違法性を基礎付けるものでもない」という判決をしたのです。
市長以下奥州市幹部職員のなした行為の違法性の審判の対象を「市所有地の廃棄物処理料を市が支払ったことは違法かどうか」と、問題をピンポイントに絞り込み、そのポイントだけを取り上げ、違法性の有無を審判したことに、この判決が誤判した最大の原因があります。この判決は、そこに至った経過を捨て去ったのです。患部一点だけを診て、患者を診ずに、見殺しにしたのです。
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