司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 〈今回の調査の意義〉

 

 上述のところからすれば、今回の最高裁が行った調査委託は一体何のためにしたのか不可解としか言いようがないであろう。

 

 前記5つの仮説は、最高裁の提示したものか調査会社の独自のものかは分からない。しかし、制度に内在する問題に原因があるかどうか、例えば前記の四宮教授の守秘義務の緩和の問題(私は見当違いと考えるが)さえも取り上げなかったということは、この仮説は、前述の調査者の立場上調査委託契約の内容として初めから制度問題には切り込まないという条件付ではなかったかとの疑いを持つ。

 

 偶々手元に2009年1月14日の朝日新聞地方版の記事がある。仙台市民1000人を対象に調査した結果の記事であり、その見出しに「裁判員参加8割消極的……不安なお」とある。一地方の調査結果とは言え、法施行目前においてこの制度に向き合う市民の感覚を表しているデータとして無視することはできないであろう。今回の調査の出頭者数の中には裁判員となることについて否定的であっても裁判員候補者呼出状で、不出頭については10万円以下の過料の制裁をちらつかされたことにより、それを免れようとして止むを得ず呼出しに応じた、つまり不本意ながら不出頭を避けた裁判員候補者が何割かはいたであろうことを考慮に入れれば、この制度施行前の8割という消極派の数字はそのまま上記参加率を示していると言えるのではないであろうか。

 

 この参加率に関する数値は、仮説としてあげられた事項とは無縁の、制度そのものに対する国民の認識、司法制度として何故そのようなものが必要なのかという国民の疑念の表れとしか解し得ない。

 

 

 〈おわりに――参加率の低いことをどう捉えるか〉

 

 例の大法廷判決は言う。「我が国の刑事裁判は裁判官を始めとする法曹のみによって担われ、詳細な事実認定などを特徴とする高度に専門化した運用が行われてきた。司法の役割を実現するために、法曹のみによって実現される高度の専門性は時に国民の理解を困難にし、その感覚から乖離したものにもなりかねない側面を持つ」と。その判示部分は前後部分を含めて極めて政治的な判示であって、上告審判決としては、上告趣意とは全く無関係且つ不必要な判断部分であり、その判示自体納得できることではないけれども、それはさておき、その判示は要するに、裁判員制度は高度に専門的であることによる法曹のみによる司法の問題であるところの国民の理解の困難性、国民の感覚からの乖離の解消に役立つということのようである。

 

 理解の困難性の解消については、何故素人を裁判に参加させなければ実現できないのか、裁判員となった僅かばかりの素人に理解させたところで司法を国民に理解し易くできるとどうして言えるのかの説明がない。国民が裁判の理解に困難さを感じるというのであれば法曹自体の努力・工夫でいくらでも理解し易いように説明できるのではないか、その努力をまずすべきではないかということになろう。

 

 また、国民の感覚から乖離しているというけれども、本来、司法というのは、多数の民意に従えば良いものではなく、仮にそれが少数派に属する意見であったとしてもその正当性の認められるべき分野である。国民の感覚に迎合すべき分野ではない。司法が従うべきは憲法と法律のみなのであり、それ故に、国民の代表が制定した法令をも違憲と判断し得る権限が憲法によって与えられている。国民の感覚と乖離したからと言ってそれを何故改めなければならないのか。前記大法廷判決の数々の問題性についてはこれまで繰り返し論じてきたけれども、前記の判示はこの点からしても到底受け入れられないものである。

 

 法に関する専門性が必須であるというのであれば、法に関する専門性のない素人が裁判をすること、評議に参加し量刑をも担う制度、つまり素人が裁判官となる制度は何故に必要であり是認できるのかについての納得のいく説明はなかった。立案当初から裁判員制度制定の立法事実も明確ではなかった。そのため多くの一般国民が前述のように裁判員制度についてその意義に疑問を感じ、施行直前において8割の人々がその参加に消極的意向を明らかにし、さらに今回の調査では参加率の低下傾向が明らかな数値に表れたということは、身の程をわきまえている一般市民がこの国には如何に多いかということである。参加率の低いこと自体はむしろ望ましいとさえ言えることであり、殊更にそのことを問題視して貴重な国費を投じて民間業者にその原因調査を依頼するようなことではなかったのではないであろうか。

 

 兎も角、参加率低下に歯止めのかからない裁判員制度は、制度自体が立ち行かなくなっていることを示している。正に落日にあることは間違いがない(判例時報2312・2313号、大久保太郎元東京高裁判事論稿)。



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