司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>




 〈日本国憲法において国はいくら借金をしてもいいのか〉

 財務省によれば、「2019年度の国の一般会計歳入101.5兆円は、税収等と公債金(借金)で構成されています。現在、税収等では歳出全体の約2/3しか賄えてらず、残り約1/3は借金(公債金)に依存しています。この借金の返済には将来世代の税収等が充てられことになるため、将来世代へ負担を先送りしています」とのことです。

 大雑把に言って、日本国の総予算は100兆円。そのうち3分の1は、国債などの借金で賄われているということになります。それは、将来世代が払うことになるのです。

 国債や借入金などを合わせた国の借金は、令和元(2019)年12月現在1100兆円を超え、日本の総人口で割ると、国民一人当たりの借金は871万円になるとのことです。妻と子供たち夫婦と孫を入れると、9人家族の我が家では871万円×9人=7839万円となり、びっくりするような借金をしていることになります。とても払い切れる金額ではありません。支払請求を強く受けたら、首でも吊る他ないような状況です。

 ですが、現実にそんな危機感を感じたことはありません。なぜなのでしょうか。現実にその借金の返済に迫られたことがなく、これからも国民一人一人に、その返済を誰からも直接請求されることは考えられません。ですから、そんな借金をしているという実感は湧いてきません。危機感もありません。

 国の借金を返すために税金を徴収して、その中から返すということになりますから、国民としては直接借金を返すという実感が湧かないのです。

 財務省は、「借金の返済には将来世代の税収等が充てられることになります」と言っていますので、われわれはどこか他人事のような気がしています。国は、いつ、どのような方法で、将来世代から借金返済分の税金を徴収するのでしょうか。本当に徴収できるのでしょうか。「将来世代へ負担を先送り」していいのでしょうか。政権担当者も、国会議員も、国民も本気で考えてみなければならない時ではないでしょうか。

 新型コロナウイルス対策費は、どれほど掛かるものなのか、はっきり分かりません。第何波までも予測され、そんなことになったら、国はさらに多額の対策費が必要となります。

 前述の通り、国家予算の3分の1は、国債などの借金で賄われているのに、さらに新型コロナウイルス対策費に莫大な支出をしなければならない国は、多額な国債の発行などで借金を増やすことになります。この先は、どうなっていくのか心配になります。これ以上、国は借金をしてもいいのでしょうか。


 〈税金の所得再分配と同じ役割〉

 この問題は、経済の専門家でないばかりか、経済に関しては全く知識のない私如きの立場の者が論じることは適切とは思いません。ですが、「経済」という言葉は、「経国済民」、つまり「国を治めて民衆を救う」という言葉から生まれた言葉のようですから、国の基本法である憲法の視点から、この問題を考えてみることは無意味とは思えません。

 日本国憲法の究極の価値は「個人の尊厳」、つまり一人一人の人間の生命と基本的人権にありますから、この視点で「国は借金をしてもいいのか」という問題を考えてみる必要があります。

 問題を少し具体的に考えてみます。日本国が現在抱えている1100兆円の借金の多くは国債です。「国債」とは、「国が財政赤字などを補うために発行する公債」(角川必携国語辞典)です。「公債」とは、「国や地方公共団体が資金不足のため、国の内外から借金をすること」(前同)です。

 国は国債を発行したら、いずれその借金を返さなければならないのです。日本国憲法においては、国民主権ですから、最終的には国民一人一人が、その借金を払わなければならないということになります。前記の通り、令和元年12月現在、日本国民一人当たりの借金は、既に871万円となっています。

 日本国の借金は既に、日本国民の一人である私には払えそうもない金額となっています。まだ小学生になったばかりの孫は全く払えないことは明らかです。少しばかりの年金でかろうじて生活している老人だって払えません。生活保護を受けている状況の人は、なお払えるはずがありません。今、このカネを払えと請求されても、払える人はあまりいないでしょう。

 国は、国民からその借金返済分を徴収しようとしても出来ません。だったら、国はどうしたらよいのでしょうか。最後は、「ない袖は振れない」ということになります。そうなったら、どうなるのでしょうか。

 乱暴な言い方になりますが、国債を持っている方に泣いてもらう他に方法はなさそうです。国債を持っている人は、国に対して借金返済請求権を持っています。何の資産もない子どもや生活保護を受けている人とは違います。国債を持っているというだけで、その限りで言えば富裕者と言えます。

 「日本国憲法において、税金にはどのような役割があるのか」において述べた通り、税金には所得の再分配、つまり富裕層からより多くの税を徴収し、社会保障等に充てるという役割があるのですが、その延長線上で国債を持っている人には泣いてもらうことになるのではないでしょうか。

 国の借金は、税金が所得の再分配の役割があるのと同じ役割を果たすことになりそうです。つまり、富裕層から借金をして貧困層の生活を支え、その借金が払えなくなったら、それも止むを得ないということです。

 (拙著「新・憲法の心 第28巻 国民の権利及び義務〈その3〉」から一部抜粋)


 「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法の心 第29巻 国民の権利及び義務(その4) 学問の自由」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第4巻(本体1000円+税)、「兄」シリーズ 1話~9話(各本体500円+税) 発売中!
  お問い合わせは 株式会社エムジェエム出版部(TEL0191-23-8960 FAX0191-23-8950)まで。

 ◇千田實弁護士の本
 ※ご注文は下記リンクのFAX購買申込書から。

 ・「田舎弁護士の大衆法律学」シリーズ

 ・「黄色い本」シリーズ
 ・「さくら色の本」シリーズ



スポンサーリンク


関連記事

New Topics

投稿数1,193 コメント数409
▼弁護士観察日記 更新中▼

法曹界ウォッチャーがつづる弁護士との付き合い方から、その生態、弁護士・会の裏話


ページ上部に