〈国際救助隊ができる活動〉
救助隊ですから、自然災害時の救助活動はもとより、遭難した船舶、航空機の捜索・救助、水防、消防、医療、防疫、給水、人員や物資の輸送など、さまざまな活動ができます。自衛隊は、これまでもこのような活動を幅広く行ってきました。
問題は、これまで行ってきたPKO活動と海賊対処への取り組みなどです。PKO活動と海賊対処は、場合によっては武器使用の必要性が出てきそうな活動ですから、「戦争放棄」、「戦力の不保持」、「交戦権の否認」の憲法の規定に反しないか、検討を要するところです。
結論を先に言ってしまうと、国際救助隊は武器使用が必要な分野では活動すべきでないと考えます。武器使用が必要な分野は他の機関に任せ、国際救助隊の活動は、武器使用が必要でない分野に限るべきです。それが、憲法9条の規定に沿うものだと確信します。
このような基本的考え方に沿って、国際救助隊はどのような活動ができ、どのような活動ができないのかを判断すべきだと考えます。以下、「武器使用が必要な分野かどうか」という基準で、海賊対処活動、PKO活動について見ていきたいと思います。
海賊対処活動は、武器使用が必要な分野だと思いますので、原則として国際救助隊か活動すべき分野ではないと思います。海賊対処活動の中でも、武器使用の必要がない分野については、国際救助隊か活動できる分野がありそうな気がします。
どこまでが武器使用が必要な分野で、どこまでが武器使用が必要ではない分野かは、個々のケースごとに判断しなければならないと思いますが、海賊船を拿捕したり、掃討したりする活動は武器使用が必要となりそうですから、国際救助隊は活動できない分野であると考えるべきだと思います。日本は、戦争や武力行使はできないのです。これは絶対的な原則です。
PKO活動については、これまで自衛隊が行ってきたPKO活動の内容を検討し、その活動のうち、武器使用が必要な分野と目されるか否かで判断すべきではないかと考えます。これまで自衛隊が行ってきたPKO活動のほんの一部を見てみたいと思います。これは極めてアバウトな見方ですから、詳しいことを知りたい方は、「防衛白書」をはじめとする資料を見て下さるようお願いいたします。
PKO(Peace-Keeping=Operations)とは、「国連平和維持活動」と訳されています。広辞苑では、「国連が、受入れ国の同意を得て、加盟国の提供する部隊・人員を現地に派遣すること。紛争の防止、停戦の監視、治安維持、選挙監視などを活動内容とする」と書かれています。
「防衛白書」(平成25年版)には、「世界各地の紛争地域の平和と安定を図る手段として、伝統的な停戦監視などの任務に加え、近年では、元兵士の武装解除、動員解除・社会復帰・治安部門改革・選挙・人権・法の支配などの分野における支援、政治プロセスの促進、文民の保護などを任務とするようになっている」と記されています。
同白書は、「現在、14のPKOおよび13の政治・平和構築ミッションが展開されている」と続けています(編集部注・2017年5月末現在、国連PKOは16、2016年3月末現在、政治・平和構築ミッションは11)。「ミッション」とは、「使命」とか「伝道」などという意味でしょう。
さらに、「紛争や大規模災害による被災民などに対して、人道的な観点や被災国内の安定化などの観点から、救援や復旧活動が行われている。わが国は、これらの国連を中心とした国際社会の平和と安定を求める努力に対し、日本の国際的地位と責任にふさわしい協力を行うため、資金面だけではなく、人的な面でも協力している。防衛省・自衛隊は、人的な協力の一環として、国際平和協力法に基づき、国際平和協力業務に積極的に取り組んでいる」とあります。
これらの中で、どれが武器使用が必要な分野で、どれが武器使用が必要でない分野かは、私にはよく分かりません。ただ、どの分野であれ、武器使用が必要な分野においては、国際救助隊は活動できないと考えるべきです。
そのように考えますと、国際救助隊は、海賊対処活動においては相当の部分において活動できないということになそうです。このような場合、どうしたらいいのかということも考えておく必要があるのかもしれません。
〈武器使用分野は海上保安庁と警察庁へ〉
思いつきに過ぎませんが、武器使用が必要な活動をしなければならない時は、海上では海上保安庁に活動してもらうなどという方法があるのではないかという気がします。今の法律では無理な場面がある場合には、法改姓も考えてみる必要があるかもしれません。
海上保安庁に海賊と戦うだけの戦力がないというのであれば、現在自衛隊が持っている戦力を、海上保安庁に譲る途も考えてみる必要があります。今、自衛隊が保有している戦力は、海賊と渡り合うには十分すぎるほどの力があり、その一部を海上保安庁に委譲すれば、海賊と十分に戦えることは間違いありません。
PKO活動のうち、武器使用が必要となるケースにおいては、部分的な法改正は必要になるかもしれませんが、陸上においては警察庁にその任務を行わせるという方法もありそうです。その時、戦力が不足しているというのであれば、ここでも今、自衛隊が持っている戦力を警察庁に委譲すれば、簡単に解決できると思います。場合によっては、海上保安庁と警察庁の連携が必要な場合もありそうです。
「国際救助隊は、戦争はしない。武器使用はしない」という原則を固く守り、ひたすら救助活動に専念すべきだと思います。それこそ、国際救助隊の存在意義を世界に認めてもらえる最善のやり方だと思います。
武器使用が必要な分野においては海上保安庁や警察庁に活動してもらうことにして、不足であれば、海上保安庁や警察庁の戦力を向上させるため、自衛隊の保有する戦力を委譲して充実させるべきだと考えます。そのための法改正が必要であれば、改正草案を創って国民に示してほしいのです。
「それでは、海上保安庁や警察が軍隊に代わる役目を果たすことになるのではないか」という思いを抱く方もおられるかもしれませんが、海上保安庁には海上の安全を確保することが主たる目的ですし、警察は社会公共の安全秩序を守ることが主たる目的ですから、その必要の範囲において、障害を排除するための力を持つことは不可欠です。
しかし、海上保安庁警察庁は、戦争を目的としている自衛隊や国防軍とは、根本的に異なります。その目的は、社会公共の安全を守ることです。戦争目的ではありませんから、軍隊ではありません。警察力は、人々の命や財産を守り、安心して暮らせるようにするための力です。他国民を殺したりする力ではありません。
海上保安庁や警察庁の装備も、世の中の変化に連れて変わるのは当たり前です。時には、わが国のタンカーが海賊に襲われることを予防するために、海上保安庁がそれ相応の装備を持つことも必要になってきます。
オウム事件やテロリストのようなケースにおいては、海上保安庁も警察庁も相当高度な装備を持たなければ対応できないことも十分に予測されます。ですから、今自衛隊が保有している戦力のうち、かなり多くのものが海上保安庁や警察庁で活用されることが考えられます。
自衛隊を、「救助活動」部分と海上保安庁や警察庁に委譲すべき「武装部分」とに分け、その主力を国際救助隊とすべきだと考えます。残る武装部分のうち、海上保安庁や警察庁に必要な部分は両庁に委譲し、残りは救助装備に変え、それでも残る武力は廃棄すべきです。
日本は、戦争はできないのです。戦争目的の武力は持てないのです。この原則は、絶対貫徹しなければならないのです。自衛隊は、「救助力」と「海上保安力」、「警察力」に分けるべきです。
(拙著「新・憲法の心 第5巻 戦争の放棄(その5)」から一部抜粋)
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