〈弁護士法1条に加えるべきだった言葉〉
事務所便りを出し、駄弁本を出し、講演をし、人命と人権を守るために、戦争に向かうような考え方に対しては、戦争絶対反対の意思を明確にし、主権者である国民に、地方住民に、戦争へ向かう芽は一日でも早く摘み取るように働きかけてきた。これからもそうしたい。
プーチンが指揮するロシア軍のウクライナ侵攻を阻止できないロシア国民のような、日本国民にならないように、国民に、地方住民に、人命と人権は、憲法が究極の価値としていること、人命と人権は、この世の中で最も大事であるという哲学と、そのためには戦争はしてはならない、させてはならないということを知らせ続けることが、弁護士の使命である。
それが地方弁護士の一人である我が身として、やらなければならない社会的使命であると確信しているし、それがこの世に生み出された我が身がやりたいと思っている究極の望みである。形振り構わず、世間の思惑も気にせず、「戦争絶対反対」「9条改定阻止」の考えを発信したい。どんな理由があろうと、国が武力で人を殺し合う戦争には絶対に反対するということを発信し続けることが、私の社会的使命と考えている。
そのような考え方から、弁護士法第1条が「弁護士は基本的人権を擁護することを使命とする」と規定していることには何の異論もない。当然の規定と受けとめている。その規定がなくても弁護士になった以上、人命と人権を擁護することは最も大事な社会的使命だと確信している。弁護士法第1条のうち、「弁護士は基本的人権を擁護することを使命とする」との部分は、当然の規定である。この部分については何の異論もない。
ただこの規定には、「国家機関等の侵害から」という言葉を明記した方がよかった気がする。国民の人命と人権を侵害するのは国家機関であり、権力の座にあるものだから、それをはっきりさせておいた方が分かりやすい気がする。「基本的人権を擁護する」の前に「国家機関等の侵害から」という言葉を入れた方がよい気がする。しかし、その言葉が明記されなくとも、この規定はそのように読むべきである。
人命と人権を侵害する最も大きな原因は戦争であり、戦争をするのは国家機関であるから、そう明記した方が分かり易くよかった気がするのである。地方弁護士は、このような大事なことを地方住民に分かり易く説き、広めなければならない。地方弁護士にはそういう役割があると確信する。弁護士法第1条のうち、「弁護士は基本的人権を擁護することを使命とする」との部分は、「国家機関等からの侵害から」と言葉を入れた方が良かったという他には、弁護士法第1条の規定に異論はない。
〈諸刃の剣となる「社会的正義の実現」という部分〉
これに対して、弁護士法第1条のうち、「弁護士は社会的正義を実現することを使命とする」との部分は、これまで述べた「弁護士は人命と人権を擁護する」
という趣旨になる部分と異なり、ストレートには納得できない。この規定の解釈の仕方によって、国家機関等からの人命と人権を守るという、弁護士の最も大事な社会的使命に反する結果を生み出しかねない心配がある。
弁護士法第1条のこの部分は、諸刃の剣となりかねない。この規定の解釈の仕方如何では、この部分は国民の人命と人権が国家機関から侵害される根拠に使われる危険な面を持っている。この部分は、国家によって国民が戦場に送られる理由として使われる心配がある。国家権力が国民を戦場に送る理由として、「社会正義の実現」という言葉が悪用される心配がある。
「社会正義を実現する」という極めて当たり前で、問題がないように聞こえる言葉でも、解釈の仕方によっては、大きな問題が生じる危険性がある。社会正義という言葉の解釈如何によっては、国家機関などが国民の人命や人権を侵害することを容認する道具となりかねない危険がある。
そこまでは一般の地方住民は気が付かない。そういうことを地方住民に知らせることも地方弁護士の重要な社会的使命である。地方住民と一緒に考え、地方住民に正しい知識と知恵を与え導く使命を担当するのは、口幅ったい言い方だが、地方弁護士が最も適任者であり、地方弁護士の社会的使命であると確信する。
「弁護士は社会的正義を実現することを使命とする」という規定には、具体的には次の二つの問題がある。一つは、この場合の「社会」とは何を言うのか、二つは、この場合の「正義」とは何を言うのか、という問題である。
ここで言う「社会」と「正義」にどのような意味内容を盛り込むかが重大な問題となる。その意味内容の盛り方如何では、この規定は国家機関が国民の人権と人命を制約する道具となる危険性があり、国民を戦場に理由とされる危険性がある。この規定には場合によっては従えないという場面が出てくることが予想される。
この規定は、解釈の仕方によっては、国民の人命と人権を、国家機関などの権力者の侵害から守るこことは反する結果を生み出す危険性がある。国家機関などから人命と人権を侵害する理由として悪用される危険性がある。「社会」
と「正義」の解釈次第では、国民の人命と人権が侵害される道具とされかねないのである。
法令は解釈の仕方によって、どうにでもなるという怖い一面がある。法令は解釈次第では、毒にも薬にもなる諸刃の剣である。そのようなことを普段から地方住民に分かりやすく知らせることは、地方弁護士の社会的使命の一つである。
この場合の「社会」を国とするなら、弁護士は国のいう正義を実現することを使命とする考え方になる。しかし、この考え方には賛同できない。弁護士は、国の言う正義に無批判に従うべきではない。弁護士は、国家機関の暴走を阻止する役割がある。
弁護士は、国の言う正義に盲従してはならない。弁護士は、国の言う正義に言われるままに従ったら、弁護士の社会的使命を放棄することになる。弁護士は、国家機関などが国民の人命と人権を侵害することを阻止しなければならないのであり、国の暴走を阻止するのが、その役割である。国の言い分を鵜呑みにしては、弁護士の役割は果たせない。
(拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』から一部抜粋)
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