〈国は干渉できない個人の命と生き方〉
法律は、社会秩序を保つために国が決めた国民が守るべききまりです。複数の人間が共同生活するためには、きまりが必要であることは間違いありません。そして、共同生活をする以上は、このきまりを守って生きなければならないことも間違いではありません。
国は法律を作って、国民にそれを守ってもらおうとすることは、国民が国という枠の中で共同生活を送る以上、当然のことです。ですが、法律にもいろいろあります。刑罰を以ても守らせなければならない強制的なものもあります。それに反し、法律より本人の気持ちが優先される法律もあります。
民事に関する法律は後者です。相続に関する法律は、原則としてそういう法律です。私人間の関係に関する法律は、基本的にそういうものです。ですから、相続に関しては、法の規定より関係する人の気持ちが優先します。
人生をどのように生きるかという問題は、国が決められるものではありません。法律は共同生活をする上でのきまりですが、個人の生き方は、個人の問題ですから、共同生活をする上でのルールは関係ありません。
どのように働き、働いたカネをどのように使うかは、その人の自由です。働いたカネを使わないで残すことも個人の自由です。法律によって決めることではありません。その人の生き方の問題ですから、個人の問題であり、共同生活のルールである法律とは関係なく、自分で決めればいいのです。
残したカネを、やるかやらないかも個人の自由です。残したカネをもらうかもらわないかも個人の自由です。このような自分の生き方は、自分で決めることができるのです。他人に迷惑をかけない限り、国が個人の生き方に口を出す余地などないのです。
生き方は、個人の自由です。個人の命と個人の自由は、国によって与えられたものではありません。法律によって与えられたものではなく、従って、法律によって奪われるものでもありません。法律以前に、生まれた瞬間から、それぞれの人にあるものです。
国は個人の命と自由を守るのが、その責任であり役割です。国は、正当な理由がなければ、法で個人の命や基本的人権を制約してはならないのです。憲法の究極の価値は、「個人の尊厳」にあります。個人の命と生き方については、国が干渉できないのです。国は、個人が他から命や人権を侵害されないように守るだけです。
〈法律によらず国民が自由に決められるという認識〉
個人の命と個人の自由を守ることが、近代国家の責任です。社会秩序を保つために決めたきまりである法律の究極の目的は、個人の尊厳、つまり国民一人一人の生命と自由を守ることにあります。国の役割は、個人の命と自由を守ることにあり、国が個人の命と自由を制限するようなことは、国の役割に真っ向から反します。
国民一人一人がどのように生きるかは、国民一人一人が自分で決めることであり、国はそれを他から邪魔されないように守るのが、その役割です。そのために法律があるのです。
国のために国民の命を犠牲にしなければならないとか、国のために国民の自由を制限するなどということは、国の本来の役割と真逆なことなのです。個人間で「カネをやりたい」「やりたくない」「もらいたい」「もらいたくない」などということに、国は口出ししてはならないのです。
国が国民の命を犠牲にしたり、国民の自由を制限することになる最も酷い例は戦争です。国に国民の命を犠牲にしたり、国民の自由を制限することを許したりすると、戦争に突入する危険が出てきます。国に国民の命や自由を制限する権限を認めてはならないのです。
国民の命と自由は、最終的には国民自身が守らなければなりません。国民の生き方は、国の作った法律によらないで、国民が自分で自由に決められるものです。このことはことあるごとに認識をはっきりとさせておかなければなりません。赤紙一枚で戦場という殺し合いの場に行かなければならない国には二度としてはならないのです。
相続問題は個人の生き方の問題です。個人の財産権は、国によって侵害されないと憲法は保障しています。遺産問題は法律が干渉すべきではない分野です。ここは相続問題を解決する場合においても、最も強く認識する必要があります。
つまり生き方の問題は、法律や裁判によって決めてもらうものではないのです。人生をどう生きるかは、自分の気持ちで決めるものなのです。相続問題は、国と個人の問題ではなく、個人と個人の問題であり、国から干渉されてはならない領域であるという意識は大事です。
(拙著「いなべんの哲学 第6巻 」から一部抜粋)
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